1章 未来(ゆめ)を追いかけて 【病院】
女の子っていう事実が嫌だ。
女の子と遊ぶより、男の子と遊ぶ方が楽しい。
「私」とか「ちゃん」とか嫌で、避けてきた。
こんな僕っておかしいのかな?
「チソラさん、どうぞ。」
看護師さんの呼ぶ声がして、僕は診察室に入った。
「「お願いします。」」
僕の声とお母さんの声が重なる。
椅子に座っているのは前回も僕のことを見てくれた医師だ。
「チソラさんの診断結果ですが、LGBTのFTM、身体は女の子で心は男の子というものでしょう。性同一性障害とも呼ばれるものですね。」
身体が女の子で心が男の子、、、。
ずーっと違和感はあったんだ。女の子って言われるのはなんか嫌で。「私」っていうのもおかしい気がして。ずっっと避けてきた。
「性別適合手術というのをする人が大半です。自分があるべき性別になるために手術するんです。チソラさんはまだ中学生なので、今日からもう少し考えてみてください。もし手術するなら相談しながら、というふうになりますので。」
あまりの情報量に頭がパンクしそうだ。
性同一性障害、LGBTにFTM、性別適合手術?
どれも自分のことなのによくわからない。
あまりの情報量に頭がクラクラし始めた時、看護師さんが声をかけてくれた。
「チソラさん、大丈夫ですか?先生、小部屋に移動させても良いですか?」
「喋りすぎましたね。子供部屋へ連れて行ってください。今日はヒナさんがいるはずです。僕はお母さんとお話ししますので。」
先生が優しく言う。
看護師さんに連れられ、診察室からしばらく歩くと子供部屋が見えてきた
「ヒナさん、入りますよ。」
看護師さんがそう行ってドアを開けると、女の子が椅子に座っていた。
「こんにちは!」
女の子が元気に言う。
僕はなんて返せば良いのかわからず、黙る。すると、ちょっと間をおいて看護師さんが話し始めた。
「ヒナさん、こちらチソラさんよ。今日から時々来るかもしれないの。仲良くね。」
ヒナさんと呼ばれた女の子は顔をパァっと明るくして
「チソラくん、よろしく!」
といった。初めてだ。僕のことを最初から「くん」と呼んでくれた人は。
「ヒナさん、よろしくお願いします。」
僕がおじきをすると
「ヒナでいーよ〜!こちらこそ、よろしくね!チソラくんってどこ中なの?」
とヒナ。
「僕は、、、西中学校。」
僕が答えたと思ったらヒナさんは
「部活は〜?」とか「好きな人いるの〜?」とか聞いてきて、僕はその後の質問はテキトーに返事をした。
後から聞いたところ、彼女は僕より一個下の中1で、病気があってこの病院に入院しているんだそうだ。
でも、このとき僕は彼女に興味はなかったし、もう会うこともないだろうと思っていた。
「チソラ、性別に違和感があるって本当?」
病院から帰る車の中。お母さんに聞かれた。
「、、、、うん。僕は男の子なんじゃないかなって、、、。」
今回、お母さんに話すのは初めてだった。
お母さんは、僕に優しくない。いつも、お姉ちゃんを見てた。すごい勉強ができて、かわいくて、みんなからすごいねってたくさん言われるお姉ちゃんのことをいつも褒めてた。だから、僕に興味はなくて。
病院を受診したいって言うのも、怖かった。
でも、ずっとしている違和感は絶対おかしいから、正直に話した。
でも実際、病院を受診したい、と言ったときはお母さんは冗談としか思っていないようだった。
「嘘、絶対嘘よ。あなたは私の娘なの。男の子じゃないの。手術なんてして、もし間違いだったらどうするの?あなたはまだ14年しか生きてないのよ?私は手術なんてさせるつもりはないから、もう絶対この病院に来ないわ。本当にお姉ちゃんと違ってあなたは、、、、。」
お母さんが言い放つ冷たい言葉。男の子だと認めてくれない。
また、お姉ちゃんと比べて。僕は僕なのに。
実際、中学から歩いて来れる場所にある病院だから、お母さんがいなくても来れる。
でも、まだ14年しか生きてないから、って言うのは事実だし、まだ”気のせい”ってこともある。
僕、これからどうすれば良いんだろう。