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第3話

「今日は何するかな」


バイトが休み、イベントも無い日は暇だ。アニメを見たりミカちゃんが出た生放送番組を見返すことを普段はしている。もう見終わったものを見返すこともあるけど、知っているものは退屈になってしまうから、ほかを探す。


「うーん」


なかなかいい感じのが見つからない。最近はコンテンツに溢れているけど、自分の好みに合うものはそこまで多くないから、探すのは大変だ。最近放送されたアニメで、まだ見てないやつをチェックしようかな。


「ミカちゃんがいないんだよね…」


俺が好きなミカちゃんが出ていない作品だけど、見てみよう。女子高生達が何気ない日常を送るだけのアニメで、こういうのは頭を空っぽにしていても見られるからけっこう好きだ。今だと9話まで放送されていて、まだ1話も見てないから一気見することにしよう。



----------------



そこそこ面白いアニメだった。あと3話が今後に放送されるから、これからが楽しみだ。だけど1つ思うことがある。ミカちゃんが出ていないということだ。


最近の声優はアニメキャラクターに声を当てるだけが仕事じゃない。俺も前に行ったようなイベントに出たり、生放送の番組に出たりする声優も多い。舞台や朗読劇にもよく出演している印象がある。


俺が子供の頃にはそういうことをしている人はあまりいなかったけど、最近で人気の人はむしろアニメだけの仕事をしている人の方が少ない。タレントみたいなことになってて、大変だと思う。


ミカちゃんもそういった声優の1人だが、忙しそうだ。イベントで見られることもファンとしては嬉しいことだけど、アニメに出ているのを見たいし、本人もそれを望んでいると思う。


もっと活躍してほしいと願うばかりだ。


「ほかにも見ようかな」


アニメを見終わったらもう夕方だけど、やることが無い。夕飯食べて風呂に入ったら何か見られるものを見るか。



----------------



アニメ業界は大変な印象がある。声優もアニメーターも金銭的な面で厳しいということをたまにニュースで見る。ミカちゃんもその業界で活動しているのはすごいことだと思うけど、大人気とは言い難い。


声優もたくさん人がいて、俺が見ている限りでも競争力が高いように思える。ミカちゃんは年齢が27歳で、まわりにはもっと若い人も多い。俺は応援しているけど、これから伸びるのかどうかは簡単ではないことが予想できる。


「もっと応援しないとな」


自分1人ではたいしてミカちゃんの力になれないけど、支えられるように頑張ろうと思う。そのためにも今の生活から脱却して、もっと金を持てるようになりたい。莫大な資金力でグッズを買ったりするのが夢だ。


今の自分からは程遠い理想。だけど、いつか実現したいことだ。今はコンビニでバイトしている人生をしているけど、そのうち抜けられるだろう。


「………」


抜けられるだろうか。そもそも、人の心配をしている場合ではないのでは。俺自身が1番将来を見通せない。バイト暮らしはまったく安定していない。


一方、まわりには金を持っているオタクもぼちぼちいる。タクノもその1人だ。そんなやつらの中にいると思うと、余計にみじめな気持ちになる。みじめになるし、腹が立つ。なんでこんな境遇なんだろう。


俺だって頑張らなかったわけじゃない。大学まで通って、一応努力はしてきた。それでもこの現実。悲惨だ。


「どうしようもないな…」


先が見えない生活。考えたくもない。


「風呂入って寝るか」



----------------



「いらっしゃいませ…」


今日はバイトの日。何年も続けてきた接客をしていく。並んでいる客に対応する。客が出した商品のバーコードを読み取り、袋に詰めて渡す。仕事をしているけど、楽しい気分になれない。


この仕事をしていても稼げる金はたかが知れてる。もう辞めてしまおうかな。それはそれで不安だ。今よりいい仕事に就けるか?ひたすらバイトしかしていない人間を高給で雇ってくれる企業なんて想像が付かない。


「おい!」


「あっ、すいません」


ぼーっとしていたら目の前の客に気づかずに放置していた。焦りながらレジに置かれた商品を読み取る。金を受け取って、商品を渡す。


「ありがとうございましたー」


客を見送った。本当に俺はダメだな。この仕事でもミスが多すぎる。憂鬱な気分になる。


「辞めるか…」


どうなるか分かんないけど、楽しくないし辞めるべきだろうと思う。今度店長に伝えて、別の仕事を探すことにしよう。



----------------



「今日は生放送の日か。見ないと」


ミカちゃんが出るネットの生放送がある。月額500円の会員費だけで見られるのは大変リーズナブルだから、ありがたい。500円で月1回の生放送を見られるのは嬉しい。


「今日は何をするのかな」


ミカちゃんともう1人が出る生放送番組で、視聴者のメールを読んだり、テレビゲームをしたりするのがいつもの流れ。ゲームはその日によって変わる。アクションゲームからホラーゲームまでプレイするけど、何をやっていてもミカちゃんがひたすら可愛いから楽しい。


前はパズルゲームをしたっけ。なかなか解けないミカちゃんを見ているのが楽しかった。悩んでいる時の表情とかが可愛くてとても好きだ。本人からしたら恥ずかしいのかもしれないけど、オタクとしてはそういう表情が見たかったりする。


2人で一緒にいるというのもいい。1人だと話しているのも大変そうだし、掛け合いがあるとより盛り上がる。一緒に出ているのはミカちゃんと相性がいい人だから、見ていて安心する。微妙な関係性の相手だと微妙な雰囲気が伝わってくるから。


「もうすぐ始まるな」


そろそろ生放送の時間だ。リアルタイムでコメントできるように準備しよう。



 ----------------



結局、俺はコンビニのバイトを辞めたけど、まともな職には就けず、日雇いの仕事を転々としている。引っ越し業者の手伝いをしたり、夜勤の倉庫の仕分けをしたりと、前と収入はたいして変わらない。


辞めてから大変なことも増えたけど、まあ別によかったのかもしれない。仕事を続けてさえいればとりあえず生活はできるし、SNSでミカちゃんの活動は確認できる。写真や動画はお金をかけなくても見られるし、それでもいいかな。


「…っと」


今日は倉庫の仕分けの仕事をしている。ベルトコンベアに流れてくる段ボールを見て、自分に割り振られた印が付いたものを取って後ろの台に並べていく。


非常に退屈な作業だ。30分過ぎたかなと思って時計を見たら、5分しか過ぎてない時もあるくらいに時間を過ぎるのが遅く感じる。死んだような顔でいつも仕事をしているけど、まわりもだいたい同じような雰囲気だ。


「はぁ…」


本当は、ミカちゃんに近づきたいと思って頑張るためにコンビニを辞めたけど、自分に何か凄いことができるわけは無かった。もっといい就職先を探しても、ほとんどが書類を送った時点で不採用のメール。


面接をしてもまったく手応えを感じなくて、1社も採用されなかった。まあ当然か。フリーター歴しかないやつを普通の企業は採用しないよね。会社を選べば就けたのかもしれないけど、採用の可能性がありそうなところはどれもブラック企業の匂いがして手を出さなかった。


こんなことになるんだったら、大学の時にもっと就職活動をしっかりしておけばよかったな。ツイッターとかで卒業する頃に知り合いの様子を見ていたけど、みんなしっかり就職してた。大企業にいったやつもいたかな。


そういうやつらと比べると自分がさらにみじめに感じる。同じ場所にいたのに、どうして差が付いてしまったのか。


「休憩か…」


夜勤の途中休憩の時間だ。45分休んで、また4時間働く。いつもは買ってきた弁当をさっさと食べて、仮眠してから後半の作業に入っている。今日は少し高めの焼肉弁当にした。たまに買っていて、自分へのご褒美として食べている。


「今日見てなかったな」


スマホを取り出す。完全に昼夜逆転の生活になり、だらだらと寝ることが多くなってツイッターも見る時間が減っていった。夜勤の休憩中にミカちゃんのツイートを見るのがルーティーンになった。


「今日は何も無いか」


更新はされてなかった。ミカちゃんは数日に1回ぐらいの更新だから、少し寂しい。その分、ツイートがあった時は嬉しいし、写真があったらさらに嬉しい。たまに感じられるこの嬉しさだけを頼りに最近は生きている。

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