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第2話

今日はイベントの日。ミカちゃんが所属しているグループのファンミーティングイベントだ。イベントの内容はトークをしたり、ゲームで遊んだりするといった感じだ。


もちろん、イベントにはグッズ販売がつきもの。L版ブロマイドやアクリルスタンド、缶バッジなどがある。基本的にどれも買い集めたいものだが、難しいのが中身がランダムで決まる商品だ。


自分で当てるまで買いまくるような財力は無いし、ツイッターで連絡を取って交換するようなコミュニケーション能力も無い。目当てのものが出なかったら諦めるか、フリマサイトで購入するのがいつもの流れだ。


グループのほかのメンバーはかなり人気で、ミカちゃんのグッズを交換条件として出している人がいたり、フリマサイトで売られてすることも多い。複雑な気持ちだけど、俺が入手できるという点においてはありがたいと思っている。


今回のイベントのグッズは一通り買った。1番高いのは8,000円のパーカー。グループのロゴが胸元にワンポイントで入っていて、背面は無地。白色のパーカーで柄は胸元のワンポイントだけだから、着やすいというのは助かる。


「もう少し時間があるな」


イベントは午後1時からの第1部と、午後5時からの第2部がある。グッズ販売開始は午前の11時からで、俺は早めに行っていたから、まだイベント開始まで時間がある。


「どうしようかな」


こういう時はいつもすることに迷いがちだ。たいてい、会場のまわりにゆっくりできるような所は無いし、あったとしても複数人で仲が良いオタク達が占拠しているから居心地はよくない。


歩いていける範囲にマックとかがあればいいんだけど、離れすぎていたら会場に戻るまでに時間がかかるから、いけないこともある。今回は歩いて数十分かかる所にしかないから、うろついて時間を潰すしかなさそうだ。


「何を聞こうかな」


歩いて時間を潰している間に聞くものを選ぶ。ミカちゃんの曲を聞くのもいいけど、最近生放送された番組を見返す時もある。音楽を聞くことに対して、生放送のアーカイブを聞く時はデータ通信量を食う。だから、生放送を見返すなら画質を落とす必要がある。


「今日は曲にしよう」


音楽アプリを開いて、プレイリストをシャッフル再生にして曲を流す。ミカちゃんのグループはデビューしてから2年ぐらいで、楽曲の数はそれなりにある。20曲以上はあっただろうか。正確には覚えてないけど、多分それくらいだと思う。


グループメンバーは5人。グループメンバー全員の曲だけでなく、ソロの曲もあって、ミカちゃんは3曲だけある。可愛らしいアイドルらしい曲調のもので、好みな曲だ。


欲を言えば、ボーカロイド楽曲でよくあるテクノポップ調の曲も出してほしい。そういう曲は盛り上がるから、歌ってみてほしいと期待することがたまにある。


曲を聞いていると、ほかのメンバーのソロ曲も流れてくる。今聞いているのはグループで特に人気の山北サトミちゃんの曲だ。


サトミちゃんはツイッターのフォロワーが20万人ぐらいいて、グループの中では1番多い。俺が推しているミカちゃんは5人の中では1番少なくて、5万人ぐらいだ。


こういうグループイベントだと、人気なメンバーを推すファンが多く集まるから、ミカちゃん推しの俺は肩身が狭いというか、いづらいと思うこともある。何より、ミカちゃんに対する声援がほかのメンバーと比べて少なくなってしまうことを気にしてしまう。


俺はあまり声を出すほうじゃないから、余計不安になる。もっと盛り上げたいと思うけど、なかなか勇気が出ない。


「そろそろ会場行くかな」


会場と最寄駅の中間ぐらいをうろついていたら、もうすぐ開場10分前。開場したらなるべくすぐ入ってトイレに行き、着席しておきたいから、今から向かっておくことにする。



----------------



客席に着いた。2階席の後ろの方だから、ステージはかなり遠い。今回のチケットの運はかなり悪かったようだ。


「何かつぶやいてるかな」


スマホでツイッターを見る。イベント前はよくミカちゃんがツイートしてるから、リプを送っておきたい。ミカちゃんのツイートを見つけたので、リプを送る。


《今日も楽しみにしてるよ!》


リプを送った。まだ時間があるから、ツイッターをもう少し見る。ほかのオタクもツイートしていたのが目に入った。オタク同士で集まっているのをツイートしたり、会場に贈ったフラワースタンドの写真をアップしたりしている。


「いいなあ」


許可されたイベントなら、オタクが推しのメンバーに向けたフラワースタンドを送っている。今回のイベントも許可されていて、多くのフラワースタンドが置いてあるのを見た。1人で出している人もいれば、数人、数十人で集金して出している人もいる。


俺はそこまでお金を持っていないから、1度も出したことが無い。ミカちゃんのファンで協力者を募集している人もいたから、参加しようか迷ったけど、ほかの人に関わるのが苦手すぎて結局参加しなかった。


最終的にその人は10人ぐらい協力者を集めて、けっこうしっかりしたフラワースタンドを出していた。


「いつかは俺も…」


そんなことを思っていたら開演3分前。ペンライトをミカちゃんのメンバーカラーの黄色にセットしたりして、待つことにする。



----------------



第1部、第2部が終了。トークやミニゲームコーナーに加えて歌唱パートもあった。各部2時間で、充実した時間だった。


「今日もミカちゃん良かったな」


遠くでしか見られなかったけど、やっぱりミカちゃんを直接見られるのは嬉しい。普段は画面上でしか見られないから、こういうイベントは貴重だ。遠くだから見られているか分からないけど、全力でアピールしたつもりでいる。


まわりに黄色のペンライトを掲げている人は少なかったし、もしかしたらミカちゃんの目に入ったかもしれない。


「帰るか…」


イベントが終わったあとの帰る時間は虚しい。何週間も前から楽しみにしていたことがとうとう終わってしまって、次のイベントが待ち遠しくなる。


帰りながらイベントを思い出したりして、ツイッターに書いて記録するようにしている。忘れるのがもったいないから、なるべく細かく書いておきたい。


「あのシーン可愛かったな」


電車に乗って、イベントを思い出す。オンライン配信もあるイベントならそれを見返して思い出すこともできるけど、今回は配信が無いから自分の記憶が頼りだ。全部は覚えていられないから、モヤモヤすることもある。そういう時に、忘れていた部分をほかのオタクが書いていると助かる。


「だいたいこんなもんか」


覚えていることはだいたい書いた。やっぱり全部の記憶は思い出せなかったから、ほかのオタクのツイートを待つことにしよう。電車が目的地に着くまでツイッターを見る。


「打ち上げやってるんだ」


複数人で仲が良いオタクは居酒屋に行って打ち上げをしているようだ。この界隈に入るまではみんな陰キャって感じで、集まってワイワイしたりしないかと思ってたけど、入ってみたらそんなこともなかった。最初は意外だったな。


コミュニケーションが得意でない俺には縁のない世界だと思っている。


「…降りよう」


電車が乗り換えの駅に着いた。グッズを忘れないように気をつけつつ、席を立ってドアの方に行った。



----------------



「疲れたー」


家に着いた。朝から外に出ていたから、疲れが溜まっている。ベッドに倒れ込みたい気分だが、その前にシャワーは浴びておこう。服を脱いで浴室に入る。


「あーーー」


シャワーを浴びる。疲れてる分心地よく感じる。


「………」


いつもシャワーを浴びる時は考え事をしてしまう。他の時には思わないことでも考えたりする。それでも、だいたいはミカちゃんのファンでいることについてだ。


バイトで食いつないでいる俺は、この先も推し続けられるのだろうか、とかも頭に浮かぶ。やっぱり応援するには金を使うし、自分の生活がギリギリの状態で保っている。


それに、本当に好きだからこのままではいたくない。いつかはもっと近い関係になりたいと強く思っている。そのためにはどうすればいいんだろう。このまま応援しているだけで関係性が発展したりしたらいいなと思うが、そんなことは想像できない。


ほかの方法を考えていたらよくない手法も浮かんでくるけど、さすがにそれを実行に移そうと思うほど俺は終わっていない。まあ、こんな感情を抱いている時点で終わっているのかもしれないけど。

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