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最近イイ感じだった雨宮さんが急に冷たくなった  作者: 大月 津美姫
荒木奏汰の選択

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24 篠田さんが話したいこと

 その日の放課後。帰りのHRが終ると、俺は雨宮さんに未来の俺が犯した過ちを謝罪する為、彼女に接触を図る。


「雨宮さん、少し話したいんだけど──」

「紗蘭ちゃん」


 声を掛けた直後、それは篠田さんによって遮られた。ズイッと俺たちの間に割り込んだ彼女が、早口で雨宮さんに告げる。


「話なら私が代わりに聞くから。紗蘭ちゃんは気にせず帰って」

「ミホちゃん……いいの?」

「うん。任せて。紗蘭ちゃんは奏汰くんと話すの辛いでしょ? 今日のことは明日紗蘭ちゃんに話すから」


 おい待て。雨宮さんの代わりに篠田さんが話を聞くだと? このままだと、俺は雨宮さんに謝れねぇじゃねえか!


「篠田さん待って。俺は雨宮さんに謝りたいだけなんだ」

「そんなの、紗蘭ちゃんと話す口実でしょ? 口ではなんとでも言えるよね?」


 ズイッと篠田さんが俺に詰め寄る。意地でも俺を雨宮さんに近付けたくないらしい。


 まるで雨宮さんの護衛だな……


「雨宮さんを傷付けるようなことは言わない。何なら、篠田さんも一緒に聞いてくれて構わないから」


 そう伝えると、間髪入れずに「却下」と短く返ってくる。そして、彼女が雨宮さんを振り返った。


「紗蘭ちゃん、安心して。紗蘭ちゃんが未来で私を悪戯から守ってくれたように、今度は私が紗蘭ちゃんのこと守るから」

「ありがとう。ミホちゃん」


 パァッと明るくなる雨宮さんの表情。雨宮さん、そんなに俺と話すのが嫌なのかよ……と、それは俺の心を抉った。


「バイバイ」と手を振り合う彼女たち。


「雨宮さん待って!」


 俺が篠田さんを避けて一歩踏み出そうとすると、すかさず彼女が横にズレて行く手を阻む。


「篠田さん、頼む」

「ダメだよ。奏汰くんの話は代わりに私が聞くから」

「えぇー……」


 篠田さんに謝っても意味ねぇんだけどな……

 仕方ねぇ、日を改めるか。何なら彼女が部活のある日に、学校の外に出てから雨宮さんに話しかける手もある。


「とりあえず、行こうか」

「え?」


 考え事をしていた俺に篠田さんが「着いてきて」と言う。


「あ~、いや、篠田さん、やっぱりいいや。俺、話すことないから」


 そう、篠田さんとは話すことは何も無い。


「ダメだよ! 私が紗蘭ちゃんの代わりなんだから。それに、私は奏汰くんに話たいことあるし」

「篠田さんが俺に?」

「そうだよ」


 俺に話したいこと? 雨宮さんに関係することか?


 彼女は雨宮さんの友だちで、俺は雨宮さんの元カレ。篠田さんとの接点と言えば、その立場を利用して彼女に話を聞いたことぐらいだ。だから、篠田さんが俺に話したいことなんて、雨宮さん絡みのことしか思い浮かばなかった。


「行くよ」と先を歩いていく篠田さん。俺は仕方なく彼女の背中を追いかけた。



 ▽▽▽▽▽



 篠田さんに連れてこられたのは、この前の家庭科準備室。ではなく、学校から10分程歩いたところにあるお洒落なカフェだった。


「ここ、良いところだよね。カフェならゆっくり話せると思って」


 そう言って、篠田さんが笑いかけてくる。


 何か調子狂うな。ゆっくり話すつもりは無かったんだが、彼女が話したいこととは、コーヒーや紅茶をゆっくり飲む時間があるぐらいには長くなる話なのだろうか?


 チラリと店内をよく見れば、同じ学校の生徒が何人か来ていた。店員に案内された席に座って、直ぐ篠田さんに確認する。


「篠田さん、同じ学校の奴がいるみたいだけどいいのか?」

「紗蘭ちゃんのためだからね。奏汰くん何がいい?」


 メニュー表を広げた篠田さんが尋ねてくる。


「じゃあ、コーヒーで」

「コーヒーって言っても、色々あるよ。アメリカンコーヒーにキリマンジャロ、ブルーマウンテン。それから、このお店のオリジナルブレンド。あと甘いのだとフラペチーノとかキャラメルマキアートとか。どうする?」

「……じゃあアメリカンで」

「アメリカンね。じゃあ、私はカフェオレにしようかな〜?」


 そう呟いて、不意に彼女がメニュー表から顔を上げて俺を見る。


「奏汰くんはデザートとかいる?」


 え? 篠田さんはそんなにゆっくりするつもりなのか?


「いや、いい……」

「そう? じゃあ頼んじゃうね?」


 言うや否や呼び出しベルで、店員を呼ぶと彼女が注文していく。


 俺は一体、何してんだ?? のんびり篠田さんとカフェなんかに入って。他人からしたらこれじゃまるで……


「何だか、デートみたいだね」

「!!」


 ジッと篠田さんが俺を見る。


「……だとしたら、篠田さんはいいのか?」

「何が?」

「雨宮さんの話し聞いただろ? 俺と一緒にいたら、篠田さんが悪戯をされるかもしれないと思うけど?」

「うん。そうかもね。でも、仕方ないよ。紗蘭ちゃんのためだもん。紗蘭ちゃんにお願いされたら断れないよ。私は紗蘭ちゃんの唯一の親友だから」

「? 雨宮さんに何か頼まれたのか?」


 尋ねると「うん」と答えた彼女が少し俯いて、ぐすっと鼻を鳴らす。


「私、今まで頼まれて紗蘭ちゃんと仲良くしてたんだ」

「え?」

「紗蘭ちゃんに脅されてたの。……もし、断ったら奏汰くんに私が奏汰くんのこと悪く言ってたって、嘘を言いふらすって」

「は? 何言ってんだ?」


 急に目の前の篠田さんが言い出した言葉に、俺は目を泳がせる。


 意味がわからない。篠田さんは雨宮さんの友だちで、昼休みも放課後も雨宮さんのことを守るような行動ばかりしていたじゃねぇか。それなのに、雨宮さんに脅されてたって?


 ポロポロと涙をこぼす彼女。周りの席の客は勿論、同じ学校の奴らの視線が俺たちに突き刺さる。


 これだと、俺が篠田さんを泣かせたみてぇじゃねぇか。


「とりあえず、落ち着こうか」


 呟いて、俺はハンカチを差し出す。それを受け取った彼女が涙を拭うのを見ながら「はぁっ」と息を吐く。


 何か、益々面倒なことになってねぇか?


「……お待たせ致しました」


 店員がコーヒーとカフェオレを運んでくる。俺たちの一部始終を見聞きしていたのか、その表情はぎこちなく引き攣っていた。


 俺は居た堪れない思いでいっぱいになる。それをかき消すように、配膳されたコーヒーを啜った。


「私が話したこと、紗蘭ちゃんには言わないでね。……今度はなんて脅されるか分からないから」

「あぁ。……わかった」


 頷くと篠田さんもカフェオレに口をつけた。それから暫く俺は篠田さんの話を聞いて、お互いの飲み物が無くなる頃に、俺たちは話を切り上げて店を出た。

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