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23 残された俺たち

「行っちゃった……」


 綾奈の声がポツリと空き教室に響く。

 俺は篠田さんに手を引かれて教室を出た雨宮さんを追いかけるべきだろうけれど、動けなかった。


 雨宮さんから聞いた未来の話があまりにも衝撃だったからだ。にわかには信じがたい内容だったのは勿論だが、雨宮さんがそうまでして嘘を付く理由は全く見当たらない。だとすると、未来の俺は彼女にとんでもなく酷いことをして、酷い言葉を投げかけたことになる。


『綾奈が言ってた通りだ。紗蘭、お前他に男がいるんだろ?』


『俺にはもう飽きたから、もうひとりの方に乗り換えるつもりなんだろ?』


 どこか聞き覚えのあるこのセリフは、俺が綾奈から聞かされていた内容だ。それを今の俺が雨宮さんに言ったことはないから、彼女が知るはずがない。つまり、今の雨宮さんが未来を体験してきたというのは、辻褄が合う。


 俺と別れたかった理由……それはきっと、本当のことを言うと俺が傷付くからだ。


 雨宮さんは俺が幼なじみの綾奈を悪く言われて傷付かないように、別れるという選択肢を取った。それなのに俺は『紗蘭のこと信じてたのに。……失望した』なんて言ったのか……


 逆だ。失望されたのは俺のほうじゃねぇか。

 雨宮さんを信じられなかっただけではなく、彼女を傷付けるような言葉を並べた。


「俺、……サイテーだな…………」


 呟いてグッと拳を握りしめる。


「サイテーなのは未来のお前だろ? 今のお前はサイテーなんかじゃねぇよ」


 ポンッと大地が俺の肩に手を乗せて、慰めてくれる。


「だが、今の俺も未来の俺も間違いなく俺だ」

「じゃあ、変わるしかないわね」


 綾奈が俺を見る。


「まずは私も奏汰も雨宮さんに話を聞いてもらえるように、頑張るしかないみたいだし」


 そう言って、目の前の幼なじみが肩を竦める。


「あぁ、そうだな」頷くと、綾奈は言葉を続ける。


「雨宮さんの話からすると、彼女は私がファンクラブの子たちの悪戯を主導していて、その上で悪戯を放置していたと思われていそうね」

「まぁ、状況からして無理もねぇだろうな」

「だとしたら、それは違う。だって私はそういった悪意から雨宮さんを守りたくて彼女をファンクラブに勧誘してたんだし。今でもその気持は変わらない」


「まぁ、ちょっとだけ奏汰との仲を邪魔したかったのも事実だけど……」と綾奈がボソッと付け足した。


「でも、悪意が起こってしまったら、私じゃあ止められないのもまた事実だわ」

「くそっ! 一体誰が俺の可愛い綾奈ちゃんを悪者に仕立てたんだっ!!」


 大地がダンッと傍にあった机を叩く。自分の為に怒ってくれている大地に綾奈がときめいたのか、「大地……」と愛しそうな声で呟いた。


「…………」


 付き合いたてだから仕方ねぇが、コイツらこんな時でもイチャイチャしやがるのか。くそう、リア充め。


「……兎に角、誰かが悪戯を主導していたのは確かだな」


 気を取り直して口にすると、「あぁ」と大地が頷く。


「奏汰と雨宮さんが別れた今、悪戯をされる心配は無いと思うが、お前が雨宮さんとヨリを戻したいとなると話しは別だ。まず雨宮さんの心を取り戻すのが難解な上に、二人のヨリが戻れば悪戯が始まる可能性があるのが厄介だな」

「どうやって探す?」


 大地と綾奈が俺を見る。


「探すにしても、起こってねぇことに対して動くのは無理じゃねぇか?」

「それもそうか」

「まぁ、俺のファンクラブとやらを勝手に再開したヤツを探すって手もあるけど……」


 それも大事だが、順番が違う気がした。


 未来の俺は雨宮さんを傷付けてしまった。俺が彼女を信じられなかったから彼女は失望したんだ。


「俺は雨宮さんを信じきれなかったこと謝りたい。どこの誰だか分かんねぇヤツを闇雲に探すより、直ぐ側にいる彼女を大事にしたい」


 言えば、綾奈と大地が顔を見合わせて、それからニッと笑う。


「分かった! 奏汰は雨宮さん担当ね!!」

「そっちが片付くまで他のことは俺たちがやってやるよ!」


 頼もしい二人に俺は「ありがとう」と頷いた。

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