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最近イイ感じだった雨宮さんが急に冷たくなった  作者: 大月 津美姫
雨宮さんが冷たくなる前の俺たち
1/30

1 きっかけ

 俺には最近イイ感じの雰囲気になった女子がいる。

 3ヶ月前の6月に転校してきた雨宮さん。

長く艷やかな黒髪にぱっちり二重の大きな瞳。そしてモデルの様にスラッとした身体。廊下を歩く彼女の姿に、この学年の男の大半が2度見して振り返る。そんな彼女と運良く同じクラスになった俺。


奏汰(かなた)くん、奏汰くん』


 授業中、先生の目を盗んで小さく俺の名前を呼ぶ声。その声に誘われる様に隣の席へ振り向くと、雨宮さんが『はい。落としてたよ』と俺の机に消しゴムを置いた。


 それが転校初日に交わした『初めまして』の挨拶と朝の『おはよう』以外で初めて彼女と交わした会話だった。



 ▽▽▽▽▽



「奏汰くんは自転車通学なんだ?」


 授業の合間の10分間。隣の席ということもあって、俺たちは次の授業が始まる前に時間が許す限り言葉を交わしていた。


「うん。電車通学が面倒で家から近い高校に通いたくてここに決めた」

「へぇ〜。私は憧れてたよ、電車通学」

「どうして?」

「だって、友だちと話したり、スマホ弄っている間に移動できるでしょ? それに、他校や年上のカッコいい男の子と出会えるかもだし! 帰りは途中下車して、普段中々行けない場所にあるお店に寄り道だって出来ちゃうんだから!!」


 そう語る彼女の瞳はキラキラと輝いていた。

 要するに電車通学を利用して彼氏探しと寄り道がしたいようだ。


 俺はどう返してよいものか分からず、「そう?」と曖昧な返事をする。


「うん。私も前の高校は家の近所だったの。自転車で10分。志望校がたまたま近所だったから仕方ないけれど、本当は電車に乗って通学したかったの。だから嬉しいんだ。って言っても、この辺りのことまだあまり知らないから、何処に何があるとか良く分かってないんだけどね」


 えへへ、と照れたように笑う。


 あ、フツーに可愛い。いや、笑ってなくても可愛かったけど、笑った顔はその何倍も可愛い。

 だからだろうか?


「じゃあ今日の放課後、寄り道してみる?」


 気が付くと俺は雨宮さんを誘っていた。

「えっ?」と大きな瞳が俺を目一杯映し出す。


 ずっと隣の席だったとはいえ、今日話し始めたばかりだ。


 流石にこれは早すぎたか?


「いや、予定があるとか、嫌なら良いんだけど…………ほら、俺ずっとこの街に住んでるから案内できる方だと思って」


 告げると「えっと……」と困ったように瞳を揺らして考え始めた雨宮さん。


 嗚呼、やってしまった。

 絶望からははは……と苦笑いが込み上げてくる。我に返ると、ヒソヒソとこちらを盗み見るクラスメイトたち。雨宮さんを狙っている男子の視線が特に鋭く突き刺さって痛い。女子からも幾つかそういう鋭い視線を感じる。


 雨宮さんは所謂高嶺の花だ。

 スポーツはそこそこのようだが、勉強が出来てオマケに気が利くし、ルックスもカンペキ。だがそれ故に、男女問わず人気ではあるが誰も彼女と特別親しくなるような事はなかった。


 明日から俺はクラスメイトから干されるかも知れない。

 最悪だ。そう思っていると小さな声が聞こえてくる。


「奏汰くんが良いなら。ぜひよろしくお願いします」


 まさかまさかのOKが出た。



 ▽▽▽▽▽



 放課後、何も部活に入っていない俺は何時もなら自転車に乗って真っ直ぐ家に帰る。

 だが! 今日は違う!!

 女子と! それももあの雨宮さんと!! 出掛ける事になった!


 流石に学校の近所は何もないので、自転車を押して駅までの道のりを彼女と歩く。


 ヤベぇ、めっちゃ青春じゃん!!

 ってか、よくよく考えたらこれ放課後デートってやつじゃね??


 そんな思考に辿り着いた俺の脳内は浮かれていた。

 俺だって小学生の頃は女子と一緒に帰った事ぐらい沢山ある。それだけじゃなくて、休み時間になると俺の机には4〜5人の女子が集まっていたと思う。だが、いつからかその機会も段々と減っていった。今まで一緒に帰ってくれていた女子も、机に来て話をしてくれていた女子も寄り付かなくなっていった。今では偶に幼なじみの綾奈(あやな)から話しかけられる程度だ。


 どうしてだ? 俺なんかしたか?

 相槌が下手だとか? それか話が女々しいとか?


 色々悩んだ末に一度、綾奈に尋ねたことがあったが「奏汰は何も気にしなくていいの。そのままの奏汰でいてね」だと。


 いや! 答えになってねぇ!! 意味が分からん!!


「奏汰くん、私の為に付き合ってもらって本当に良かったの?」


 不意に隣を歩く雨宮さんが話しかけてくる。


「ん? あぁ、俺が言い出したことだしな」

「なんか、ごめんね?」

「どうして謝るんだ?」

「奏汰くんの迷惑だったんじゃないかと思って」


 何故かそんな事を気にしだす雨宮さん。

 いや、寧ろ迷惑掛けたのは俺の方では? という言葉は呑み込む。


「良いんだよ。俺も偶には放課後に誰かと出掛けたかったしな」


 言えば、彼女の表情が少し明るくなる。


「本当に?」

「あぁ。隣のクラスに親友がいるんだけど、あいつサッカー部でさぁ。放課後はいっつも部活だからこういうの俺も一度してみたかったんだ」


 ニッと笑えば、雨宮さんも安心したように表情を柔らかくして「良かった」と息を吐いた。

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