花売り娘は初のピクニックに感激する
朝のうちから出掛けたので、郊外の森で昼食となった。
「これが、ピクニック!」
感激するリリーにエドモンドが綴りを教えてやる。
「同じお外で食べるのでも全然ちがう」
リリーの言う「お外」は、教会の石段や空き家の裏で済ませる昼食のこと。日によっては一日一食のこともあるらしい。
ロバートが敷布に皿やコップを並べると、赤い格子柄の布に緑のアイビーの絵皿はよく映えた。
リリーが楽しそうにし、いつもより食も進むのが、ロバートには喜ばしい。
「お嬢さん、ほらウサギでございますよ」
少し離れたところにウサギを見つけて、ロバートが示した。リリーがそっと近づこうとする。
ウサギは人が怖くないのか、少し離れるだけでこちらの様子を窺うようにしている。またリリーがそろりと寄る。
「遠くへは行くな」
エドモンドに「はぁい」と答えるリリーは、逃げていくウサギを追いかけるのに夢中で、振り返りもしない。
今日のためにロバートが用意した水色のコットンワンピースに、白いエプロンのリボン結びが動きに合わせてひらひらとする様が可愛らしい。
「普段とは違う髪型にしてやれ」
エドモンドの命により、左右にわけて三つ編みにした髪を高い位置で丸くまとめてとめた。
リリーに言わせれば「ロビンのお耳みたい」らしい。
いつもと違い首筋が見えて、リリーの華奢な体つきを強調する。街でこの髪型は控えようとロバートは密かに思った。
「しかし、母の客にまで手の者がいるとは」
さすがに思いもしなかった、と白ワインを飲み下しながらエドモンドが鼻で笑うように言う。
行儀の良いとは言えないそんな態度も、この貴公子がとれば魅力的でしかない。
「何がどう転ぶか予測がつきませんので」
使用済みの食器を片付けつつ、一言で済ませるロバート。
リリーの母は、今朝から客と湯治に出かけている。骨休めに出かける旅の伴として身の回りの世話と話し相手を頼まれ引き受けた、という形だ。
二泊三日で出掛ける母に合わせて、リリーは臨時の門番の仕事を引き受けた――ことになっている。
肉屋にもロバートから「門番小屋にいるからリリーの姿がない事に心配はいらない」と伝えてある。
トムの父親は「ひとりで家にいちゃ無用心だから、その方がいい」と幾度もうなずいていた。
「お前のことだ、隣人と客だけでなく、他にも置いているのだろう」
エドモンドの口ぶりには確信がある。
誰をどう配置しているかなど、主の耳に入れるほどもない。ロバートは微笑を肯定とした。
「さて、うさぎを探しに行くか」
話はこれまで、と立ち上がるエドモンドの「うさぎ」はリリーのことだろう。
今日のエドモンドは白いシャツにベストを重ねた気楽な格好だ。その背に六月の木漏れ日が反射する。
「坊ちゃま、来て! 鹿、あれ鹿の赤ちゃんだと思う」
頬を紅潮させ全力で駆け戻って来たリリーが、エドモンドの手をぐいぐいと引く。
「子連れの動物は気が立っていて、あまり近寄るのは危険だ。それに、もう逃げたのではないか」
たしなめながらも付き合う様子のエドモンド。
幸せとはこのような形なのだろう。
ロバートはふたりの後ろ姿を見つめた。




