初めての遊びへの誘い・1
エドモンドとリリーはよく「当てっこ」をしている。
以前のリリーはピタリと身を寄せていたが、最近では相手に指先で触れるくらいでも、多少なら読み取れるまでに上達したらしい。
挨拶時の握手程度の時間で読み取れなければ、「もう一回いい?」と尋ね、エドモンドが許可すれば再び挑戦する。ロバートの見る限りリリーの能力は順調に伸びていると思われた。
湯から上がり軽く食事を済ませたところで、エドモンドが「当てっこ」を提案した。
「一度で分かったら、遊びに連れていってやろう。心して読め」
夜の祭に急に出かけたことはあったが、事前にエドモンドから提案したのはこれが初めてだ。驚きながらもどこか迷う様子で「一度だけ?」とリリーが尋ねる。
「そうだ、一度だ」
リリーお気に入りの寝椅子に、長い脚を組み寛ぐエドモンドが返す。
「指しか触っちゃだめ?」
隣に座りじっと眼をみるリリーは、なかなかの交渉上手だ。
「やり易い方法でいい」
譲歩を勝ち取ったリリーはエドモンドの手を取り自分の頬にあてた。長い指が耳までおおう形になる。その上から小さな手で押さえ眼を伏せた。
思いだそうとするときは見上げ、集中する時は目を伏せるのはリリーの癖だ。
エドモンドは「悪いことではないが」と指摘し、他人に考えを知られたくない時は視線の方向に気を付けるよう忠告していた。
留学が決まってからリリーへの接し方が変化したと、ロバートには感じられるが、エドモンドが自覚してそうしているのかは不明だ。
リリーも何かしら察するところはあるらしく、以前のような可愛らしい悪戯もせず、懸命に学ぶ姿勢を見せている。
成長の証ともいえるが、ロバートからすれば時折リリーから受ける焦りや微かな怯えの気配が痛々しい。
そんななかで出た「遊びに連れていってやる」という発言。是非とも一度で当てて欲しい。切なる願いを込めてロバートは仕事の手を休めてリリーを見守った。
視線をあげてエドモンドの表情を確かめたリリーが、再び目を伏せる。
――いつもより長い。まだ読めないのだろうか。またいつぞやのように、お嬢さんの知らない物を思い浮かべて意地悪をしているのではないか。ロバートが内心ハラハラしていると。
リリーの尖っていた唇から「うふうふ」と笑いが漏れた。
エドモンドが指先で耳をくすぐったらしい。端正な顔に既にからかうような色が浮かんでいる。
「坊ちゃま、邪魔したらダメ」
「お前が無駄に時間をかけるからだ。分かってるなら、さっさと答えろ」
命じるエドモンドが上機嫌だとロバートには知れた。
くすぐられたリリーは、喉を鳴らす猫のように笑っている。
そして若き主は、リリーが正解することを知っていて、答えるまでリリーの耳で遊ぶつもりらしかった。




