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家令は全ての不安を除く所存である・2

 寝かしつけたリリーの隣で寝台から身を起こしたエドモンドは、紺色のうちでも「高貴な紺」と呼ばれる色の夜着にざっくりとガウンを羽織った。


 説明を求められる前に事情を語り始めた家令ロバートに、「それで突然の変更か」と若き主は納得した様子を見せた。



 浴室から戻ったエドモンドが目にしたのは、まだ泣き止まないリリーと懸命になだめる家令の姿。


「この短時間で何があった」と冷ややかな視線で責めるエドモンドを目配せでなだめ、紺の夜着を渡し、リリーも着替えさせた。


 ふたりには音楽室へと移って夜食をとってもらい、ロバートはその隙に寝具のカバーをそっくり白から紺へと交換した。


 本来ならば、上質の麻で作られた白いシーツが最高級とされるが些細な汚れでも目立つ。例えばそれが赤色などであればなお。

――つまりそういうことだ。



 エドモンドは最小限の説明で全てを理解した。

常より低い声であるのは、眠ったリリーに配慮してのことだろう。


「良家の子女ならば一家をあげて喜ぶべき事でも、コレにとっては恐ろしいものであるのだろうな」


 ロバートの前で涙した理由を、恥ずかしさだけではなく変化する身体への戸惑いと恐れを含む、とエドモンドは考えたらしい。


 女兄弟がいるわけでもないのに、よくそのようなお考えが。ロバートは感心した。


 何事にも興味を持つことがなく人に対して冷めているのが主の本質だと理解していたが、最近は認識を改めつつある。


 全方位に比類無き優秀さを見せつける公国一の貴公子は、細やかな気遣いができ実は子供の相手も完璧にこなせるのだ――今まで必要がなかったから、しなかっただけで。



「十三まで、まだしばらく時があるとはいえ、今まで以上に気を付けねばならん」


エドモンドの切れ長の目が、すっと半眼になった。


「荒事に備えてひとり二人増やしますか。併せてお嬢さんの顔と行動も把握させておきますか」



 ロバートの頭に、エドモンドの私的な外出のほとんどを受け持つ「いつもの馭者」の顔が浮かぶ。


 先日も馭者がリリーに付きまとう男に気付き、肉屋の主人を動かして穏便に話をつけたところだ。


 リリーの知らないところで、ちょくちょく面倒が起こるようになってきている。


 それは大なり小なり他の花売り娘も抱える悩みであり、あの仕事をする限り自分で対処すべきなのだろう。


 が、怖い思いをし痛い目を見て学ぶリリーをただ見守るなどロバートにはできない相談であるし、するつもりもない。


「宮の者はつかうな」


 エドモンドは暗に「増員しろ」と言っている。

一礼し蒸留酒をいれた小さなグラスを手渡したロバートは、次の指示を待った。



「せっかくの法が有名無実化しているなどという事はないか」


 エドモンドの言う「法」とは「ひよこ法」の事だろう。ロバートは頭を働かせた。


 確かに摘発の報は耳にしていない。抑止力はそれなりにはあるだろうが、法ひとつ出来た程度で違反者が無いなどとは思えない。そろそろ引き締めが必要な頃合いか。


 ロバートの考えを読んだかのように、エドモンドが告げた。


「動きが鈍いようなら『エドモンド・セレストが成果を欲している』と伝えろ」


「承知いたしました」


 瞬きをひとつしたエドモンドが無言でグラスを口に運んだ。


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