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貴公子は花売り娘に食べさせたい・2

 エドモンドの問いかけは、きちんと答えようとすると中々に難しい。そしてエドモンドの求める答えは、もっと狭義の解釈だろう。


「富める物から与えられるのは当然だ、と受け取る事を良しとする者も多いでしょうが、庶民にも気位の高い者はいる。と云うことでこざいましょう」


それが良い形で出れば「花が無いからお金は受け取れない」と言ったリリーになるのだろう。


「手渡してすぐその場で食せる物にしてはどうだ」


 珍しいエドモンドからの提案に内心驚きはしたものの、ロバートは全く表情を変えなかった。顔に出しては主人の機嫌を損ねかねない。


「それは良いお考えですね。早速その方向で進めましょう」






 最近リリーに新しいお客がついた。集合住宅の住み込みの門番兼管理人をしている女性である。


 二日に一度、彼女が住んでいる集合住宅に花を届けるよう頼まれた。指定の時間は昼時だ。リリーが行けばいつも昼食をとる前で「いいところに来たわね」と言いながら、一人分には多すぎるマフィンや果物、パンを「一緒にどう?」と勧めてくれる。


一日中立っているリリーには、座らせてもらえるだけでありがたいのに、昼食のお相伴までさせてもらえる。


 花代はいいと言えば「それは、いけない」と言われた。管理人室の小窓に飾る。払うのは管理人の自分ではなく「集合住宅の大家さん」だから、リリーが気にする必要は全くない、と言う。


 花の入った篭を小窓の外に置き、リリーが管理人室で過ごす間に、帰宅して郵便を受け取りに訪れる人が、ついでに買ってくれたりもする。


 一人の時間が多い管理人がリリーを引き留めるので、つい長居をするようになった。管理人の娘は最近結婚して出ていったばかりで、娘の置いて行った子供向けの本をリリーに読ませてくれたりもする。勧めてくれても持っては帰れない。母さんが嫌がるかもしれないから。






「今度は上手く行ったか」


 エドモンドが尋ねる。エドモンドの所有する集合住宅の管理人の女性とリリーを繋いだのは、この年若い主人の案だ。


「はい。娘が出ていったばかりで寂しかったらしく、よく世話をやいております。お嬢さんも徐々に懐いたようで」


小まめに上げさせている報告書には、何を教えても飲み込みが早い、と書いてあった。


「しかし……今日のように通りに姿が無いと、物足りない」


 主の言葉にロバートは頷いた。確かに。今日のこの時間帯には常ならあの角にいたリリーの姿がない。


少し早いが管理人室へ行っているのだろう。あちらに良ければこちらに問題が。



 主従の暗黙の了解で、最近はどこへ行くにもリリーの立つ角を経由するように道を選択している。馭者は知ってか知らずか、その通りに限って馬を走らせる速度を落とすくらいだ。


「また何か考えましょう」


 ロバートの言葉に「不要だ」と言うかと思われた主は、無言だった。つまり「何とかしろ」という事なのだ。楽しい難問がまた増える。



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[良い点] 「また何か考えましょう」  ロバートの言葉に「不要だ」と言うかと思われた主は、無言だった。つまり「何とかしろ」という事なのだ。楽しい難問がまた増える。 「楽しい難問」を抱えたお…
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