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守りの強化も家令の仕事です・2

 アフタヌーンティーでは、まず下段のパンから食し上段のケーキへと手をのばすのが一般的ではあるが、二人きりのお茶会でうるさく言う必要もないだろうと、ロバートは説明を控えた。


 リリーは迷いもせず、まずパンから皿に乗せた。教えていないのにマナーにかなう事は今までも多々あり、母親はどこかで教養の高い人々に接した経験があるのだろうと思わせる。


 合わせて母のリリーへの期待と並々ならぬ上昇志向の強さも感じさせた。



 口を結んで行儀よく食べるリリーに、ふと思い付いたようにエドモンドが尋ねる。


「変わったことはないか」

「おとなりに、ひとが引っ越して来た」


 リリーと母親の住む部屋は、陽当たりの悪い二階の角部屋で隣室は長く空いていたとロバートも知っている。


 リリーはその理由に触れないが、昼夜を問わず「仕事」をしている女の隣室を借りたい者などそうはいない。苦情の元となるのを嫌い大家も借り手にそれを先に伝えるはずだ。


「物好きだな」

率直な感想を述べるエドモンド。


「おじさんは河でお舟の仕事をしていて、舟のお泊まりが多いからあまり帰らないんだって」


「――なぜそんな事を知っている」

「ごあいさつしたから」


 簡潔な返答に眉をひそめたエドモンドにだけ見える角度で、ロバートが小さく挙手した。


「身元は確かなのか」


 リリーに問いかけているが、エドモンドの視線はロバートに向けられている。


 気づかないリリーがスコーンを飲み込んでから「悪い人そうじゃなかった」と告げるのに合わせて、ロバートが頷いて見せる。


「――お前か」とロバートに呟いたエドモンドは「またジャムをつけている」とリリーの口をナプキンで拭った。



 後で補足説明は必要だろうが、この件に対し、若き主に異存はないらしいとロバートは判断した。


 エドモンドは全く気にした様子がないが、このところリリーはぐっと背が伸びた。バスローブを作り直したくらいだ。


 子供らしくまっすぐに伸びた脚はかわらないが、ロバートから見てもどうかするとなまめかしい時がある。


 その手の趣味のない自分ですらそうなのだから、「(へき)」のある男が見たら、ちょっかいのひとつもかけたくなるだろうと思われた。


 リリーの異能を高く評価しているエドモンドは心配していないが、ロバートから見ればリリーはしっかりとした後ろだても無く何の力もない少女だ。


 少しでも不安要素は減らしたいと、独断で隣室を信用のおける者で埋めた。


 家を出た直後に「顔見知りの隣人」に部屋へ連れ込まれるなどあってはならないし、隣を確保しておけば後々使えるかもしれないと思ってのことだ。



「お前の勘は悪くないが、頼りすぎては良くない。知り合いだからといって、簡単について行ったりするな――他国に売られるぞ」


 エドモンドが「襲われる」ではなく「売られる」で脅しにかかる。


「え、それはイヤ」


 食べる手の止まったリリーに、そうだろうとエドモンドが頷く。


「お前が人買いに拐われたら、探す手間がかかる。私に手間をかけさせるな。見つけるまでは休みは一切なしだ――ロバートは」


「ええ!?」


「ロバートの為を思うなら、充分に気をつけることだ」


 ロバートロバートと強調するのは止めていただきたい、と思うロバートだが、リリーが行方不明にでもなれば本当に「見つけるまで戻るな」と言われる気がしないでもない。いや、する。確実にそう命じられる。


「おじ様、安心して。おじ様にめいわくをかけないよう、悪い人に会ったら走って逃げる」


 リリーが目に決意を宿して約束する。可愛らしくけなげであるが、怯えて暮らして欲しいわけではない。


「いえ、今まで通りにお過ごしください」


 健やかな毎日を守るのは、こちらですればいい。この笑顔を曇らせないために、そして自分の平穏な生活を継続させるべく、ロバートは更にリリーの守備をかためようと心に誓った。


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