守りの強化も家令の仕事です・1
今年の「愛を伝える日」も、リリーの仕事は早じまいだろうとふんで、ロバートは主と共に早めに隠れ家へと来ていた。
荒稼ぎをしてリリーが同業の少女に妬まれてから早一年。今年の二月も例年通りに寒い。寒さで唇の色を悪くして現れるリリーの為に、家令ロバートは今日も薪を惜しまずに部屋を暖めた。
予想通り、いつもより早くリリーが顔を見せた。
早く温まるようにと浴室へと追いたてる。
その間にロバートは手早くお茶の支度を始めた。
皿を二段にした華やかなスタンドをセットする。
下段にはチキンを挟んだパン、ハムとキュウリを挟んだパンや塩気のあるカナッペを並べ、上段にはケーキとスコーンをのせる。
あとは花柄のティーセットでミルクたっぷりの紅茶を出せば、さらにテーブルが華やぐはずだ。
「いかがでございましょうか。エドモンド様」
立って眺めていたエドモンドが軽く顎を引くのに合わせて、器に入れた白バラの花弁を差し出す。
今日の為に用意した薄ピンク色のテーブルクロスに、仕上げにエドモンドがハラハラと花びらを散らせば、香りが部屋中に広がった。
昨年は湯舟にバラを浮かべた。今年はいかがするのだろうと思っていたら、「寝台に薔薇を散らす」と若き主が言い出した。フラワーベッドなるものだ。
それもまた若夫婦か恋人同士がすること。とは、なかなかに言い難く困ったロバートは「まだお小さいお嬢さんには甘いものの方が喜ばれるのでは」と貴婦人方の好むアフタヌーンティーを提案した。
エドモンドの感触が悪くないと読んで「おふたりきりのティーパーティーなど、いかがでしょうか。初めての事でさぞお喜びになるかと」と言い添えると、「任せる」と返され今に至る。
ちょうどよい頃合いで浴室から戻ったリリーの目は、すぐにテーブルへと釘付けになった。
少しも動かないリリーに「近くでご覧になっては」と勧める。おずおずと近寄るのに、瞳はキラキラとしている。
「……すごい、こんなにたくさん。何日分?」
小さな声で聞く。
「今日の分だ。お前のために用意した」
驚きのあまり息をのんだリリーは、無言でそっと花びらをつまみ掌にのせている。そんな一つ一つが微笑ましい。
「ありがとう、坊ちゃま。おじ様。ずうっとずうっと忘れない」
真摯な眼差しと微笑にロバートは深く心を動かされた。対してブラシを持ったエドモンドは「まずは髪を乾かしてからだ」つまらなそうに口にした。
テーブルに花を散らすと言い出したのはエドモンドなのに。照れているのだろうかと思っていると、エドモンドと視線がぶつかり、ロバートはさりげなく背を向けた。




