貴公子は穏便な対応を望む・1
昨年、カウントダウンパーティーの長さにうんざりしたらしいエドモンドは、今年は聖祭に出ると宣言した。
弟君タイアン殿下は特に思うところもないらしく、「それならパーティーは自分が」とすぐに承諾の返事が届いた。
今年も残すところ半月となった今夜もリリーは泊まりに来ていた。
新品のぬいぐるみをもらったのは初めてだと言って「クマ執事のロビン」を大事そうに抱え、暖炉の近くでエドモンドと丸い色ガラスを並べて遊んでいる。
能力を持たないロバートには分からないが、これも異能の訓練になるらしい。
「年末年始は、どう過ごすのだ」
発泡したワインを口にしてエドモンドが問いかけた。
先ほどからワインを口にするエドモンドと、蜂蜜入りのミルクを飲むリリーのタイミングが同じであることに気付き感心して眺めていたロバートは、意識を引き戻した。
「――母さんが、どこかのお屋敷であるカウントダウンパーティーに呼ばれていて一緒に行こうって」
色ガラスから目を離すことなくリリーが答えた。
「――カウントダウンパーティー?」
エドモンドの口調に微妙な響きが混じる。
リリーがこくりと頷いた。
「ドレスや靴はどうするのだ」
「いらないんだって。……着ないから」
――着ない? エドモンドとロバートの視線が交錯した。
「そのパーティー、お母様はお友達との集まりだとおっしゃっておいででしたか」
エドモンドに代わってのロバートの質問に、リリーは返事を渋った。辛抱強く待つ。
「お仕事だって。私も行けば二人分出るからって」
リリーは顔を上げない。熱心に色ガラスを見ているが、細い指はクマの腹部に食い込んでいる。
ロバートには心当たりがあった。これは噂に聞く「極めて品のない集い」ではないか。主催者が参加者のうちに娼婦を仕込んでおき、人目につくところで余興のように「行為」をさせ参加者を煽る。
薬物なども飛び交う良からぬものではあるが、大人が趣味嗜好の範囲で仲間内で楽しむ分には、法的には咎められない。
「お前はいくつだったか」
「十一」
エドモンドの質問にリリーが答えた。ヒヨコ法では、手をだした大人が罰せられる。
「そういうパーティーじゃないわ」
わざわざ口にするなら、子供ながらに怪しげなパーティーがあると知っていて、察するところはあるのだろう。
「こっちを向け」
エドモンドが命じた。
この距離で聞こえないふりはどう考えても無理があるのに、リリーは頑なに顔をあげない。
「顔をあげて、こちらを見ろ」
まだリリーは動かない。それどころか、さらにぐっと下を向いた。
ひとつ息を吐いたエドモンドが軽く両手を広げた。
「怒っているわけではない。来い」
ようやく、リリーはゆっくりと顔をあげた。




