貴公子は告白されて受け止める
エドモンドにお出かけ癖がついた。
本格的な冬の前に、隣町で行われる篝火祭をリリーに見せる、と言い出した。
「準備をしろ」
一言で済まされたロバートは、リリーの防寒具の用意から始めた。
篝火祭は、火の中に手作りの人形を投げ入れ町の平安を祈るだけの祭だ。主な楽しみは、火の周囲で温かな食べ物を食べたり飲んだりすることで、人出もそれほど多くない。
夜で人目につきにくいことからこの祭を選んだのだと、ロバートはエドモンドの意図を理解した。
仕立ては良いがいつもより布地の質を落とした外套に身を包んで、貴公子ではなく富裕な青年を装ったエドモンド。寄り添うリリーは、新しい赤いコートを着ている。
贈っても家に持ち帰れるわけではない。黒い外套の隣に小さな赤いコートが並ぶ図を見たいと思ったロバートが選んだものだ。
同じ色でマフラーとミトンも揃えた。色の白いリリーに赤はよく似合って可愛らしい。二人の後ろ姿を眺めながらロバートは満足感に浸っていた。
焚き火を前に「そう言えば」とリリーは思い出した。夜に火を見るとオネショをすると聞いた。巻き添えにしたら大変だ。
これは先に言っておかなくては。
エドモンドの手をぎゅっと握ると「何事だ」と目で問われる。
「坊ちゃま、今日は坊ちゃまと寝ない」
リリーの思考に慣れたらしいエドモンドは表情ひとつ変えない。
「何を思い付いたのだ」
「夜に火を見るとオネショをするって」
「その知識も誤りだ。正しくは『火遊びをすると』だ。火など冬は暖炉で毎日見る」
そうなの? と確かめるリリーに構わずエドモンドが「コートは気に入ったか」と聞く。
こくりとうなずくリリーは、上手く言葉にできない何かもやもやとしたものを感じていた。
お礼はおじ様にも坊ちゃまにも何度も言ったけれど、何だろう。
「足先が冷えるか」
呟いてエドモンドが軽く手を広げた。抱き上げてくれる合図だ。手の内に収まると、軽く抱き上げられる。
もう抱っこされるほど小さくないのに、と思いながらも広い肩に手を回す。
「幸せすぎてこわい」
ポロリと漏れて、子供らしくないと叱られないだろうかとエドモンドを見ると、視線を合わせたまま驚きもせず咎めるでもなく、赤いマフラーを整えてくれた。
「これくらいで、か。早く慣れることだな。こんな程度で怖がられては何もしてやれない」
リリーはじっと金茶色の瞳を見つめた。
「子供に言っても分からないだろうが、大人になると何を見ても感動が薄い。お前がいちいち大げさに喜ぶのを見て、私が楽しんでいる。だから、気にしたり遠慮などする必要はない」
いつもより、ゆっくりとした話し方。
――ずっと言えなかったけれど、ここなら暗いから恥ずかしくない……かもしれない。リリーは決心した。
「坊ちゃま。……坊ちゃまといるのが好き」
「私も、お前といる時間が愛しい。――ロバートには言うな」
耳元で言われればくすぐったいし「坊ちゃまもおじ様に聞かれるのは恥ずかしいのだ」と思うと、おかしい。
でも、言わなくてもきっと知ってる。だって笑ってるもの。リリーはエドモンドの肩越しに、ロバートに笑みを返した。




