リボン探しは家令の仕事です・2
声を弾ませてエリックが報告する。
「わかったよ。女の子達の間で、お菓子屋さんとかのキレイなリボンを髪に結ぶのが流行ってるんだって。たくさん持ってる子が自慢するらしいよ」
エリックによれば、一番の人気は庶民が手土産にする菓子店――つまり普段使いより少し高級な菓子店――のもの。
その店は贈答品の包装用にリボンを何種類か用意し、買い物客に選ばせるという。
なるほどそれは「買い物をすると貰えるリボン」であり「買うものは色々」だと、父子で納得した。
エリックはよく気が利き、見本にと幾つかの菓子を買い求め包装をしてもらい、リボンもちゃんと掛けてもらっていた。
「エリック」
父ロバートが重々しく名を呼んだだけで、全てを理解した様子のエリックは意気込みを示した。
「わかってる。次は違う色のリボンを選んでくる。全色制覇を目指すよ」
今まで物をねだらなかったリリーが初めて欲しがった物だ。それもお金がかからない物。絶対に渡してあげたい。
父子はがっちりと握手した。
「……おじ様は魔法使いなの?」
うたた寝から目が覚め、テーブルの上に並んだ菓子屋のリボン全五色を見つけたリリーが目を丸くした。
もっとはしゃぐかと思えば、エドモンドにぎゅっとしがみついて、恐る恐る眺めている。嬉しすぎて目の前の光景が信じられないのだと、ロバートは推測した。
「ありがとう。すごくうれしい」
「お金をいっぱい使った?」と申し訳なさそうにするリリー。
菓子など安いものだ。「いえ、さほど」と微笑するロバートの頬に、「かかったのは金ではなく時間だったな」と言いたげなエドモンドの視線が刺さる。
「今、結んでみてはいかがですか」
さりげなく視線をかわし、リボンをすすめる。
「坊ちゃま、何色がいい?」
「お前のリボンだ、好きに選べ」
迷って決められないリリーに、エドモンドが素っ気なく返す。
「でも結ぶのは坊ちゃまだから」
「――ロバートでなくていいのか」
よくできた家令はそこで初めて、どうやら若き主が少し機嫌を損ねているようだと気付く。本人も自覚はないかもしれない程度だ。
「いつも私の髪をしてくれるのは坊ちゃまなのに。……このリボンがイヤ?」
不安そうにじっと顔色を窺うリリーと見つめあったエドモンドが、小さく息を吐いた。
「―――その青色を持ってこい、結んでやる」
リボンを握りいそいそと戻って膝によじ登るリリーに、「近すぎて結びにくい、少し離れろ」などと言いながらエドモンドが丁寧に結んでやる。
さて。リボンを入手するために購入したが、庶民の菓子といえども、食べてみれば美味しかった。
たまにならエドモンドも珍しがるだろう。
きゃっきゃとしているリリーを眺めながら、ロバートはお茶の支度を始めた。




