リボン探しは家令の仕事です・1
ここのところエドモンドは機嫌がいい。
「最近は前ほどなつかない様子だったから、少し成長したせいかと思っていたが」
いつもの寝椅子で口頭試問などしているうちに眠ってしまい、ぴったりと身を寄せているリリーを、見おろして言う。
「はい。さようでございますね」
ロバートはリリーと若き主とを一枚の掛布でくるみながら、つい笑みを溢した。
この半年で甘えなくなったのは、少し大人になったのだと思っていたら、すっかり逆戻りした。
エドモンドに張り付かなくなったのは、ただ気温の問題であったらしい。
このぶんでは暖炉に火を入れれば、前は暖炉、背中はエドモンドで温まるのだろう。なんとも贅沢な話である。
「これのリボンは、見つかったのか」
不意にエドモンドが尋ねた。
「はい」
ロバートは静かに頷いた。
元の話は先日の宿り木を見た帰り道の馬車のなか。
気まぐれにエドモンドがリリーに「欲しいものはないのか」と聞いた。
リリーは口ごもったものの、ロバートが遠慮はしないよう勧めると、「リボンが欲しい」と口にした。
エドモンドが、そんなものいくらでも買ってやるといった顔をするのを、ロバートが目で制した。
子供にはちゃんと好みがあり、高価であればいいという物でもない。まだ子供のいないエドモンドは、その辺りに疎い。
「お買い物をするともらえるリボンが欲しい」
エドモンドの顔に分かりやすく疑問符が浮かぶ。
「もらえるリボン? 何を買うのだ」
「……わかんない。色々?」
リリーが小首をかしげる。
「色々。また中途――」
言いかけたエドモンドが口をつぐむ。
リリーの頬がピクピクと動き、またうっすらと涙ぐむ気配がする。
一度泣いたせいで、決壊する基準が下がっているらしい。エドモンドが焦って頭を撫でる。
「ああ、大丈夫だ。有能なロバートなら、お前の欲しいものを見つけてくる。任せておけばいい」
こんな時に有能と言われましてもと思うロバート。しかし期待に輝くリリーの目を見れば、どうにかするしかない。
いつもと勝手が違うが、無事に入手できるだろうか。一抹の不安を抱きつつ、ロバートは受け合った。
「お嬢さんのリボンは、私にお任せください」
「みんな持ってる。流行ってる」
リリーが言うので、子供の「みんな」はあてにならないと思いつつ、ロバートはまず肉屋の主人に聞いてみた。
「うちは男の子ばっかりで、そういったことは」と頭を掻く。どこの誰の間で流行っているのかもわからず、ロバートは世代の近い息子エリックに相談した。
エリックの学校の友人には、平民もいる。女兄弟がいれば何かわかるだろうと予想した。はたして、エリックは数日で解答を持ち帰った。




