貴公子は宿り木の下に立つ・2
エドモンドと向き合ったリリーが両手を取った。
「――どうした」
問いかけるエドモンドに「お顔が遠すぎる……」と、悲しげにリリーが呟く。
「だから何なのだ」
良いこととは思えないが、膝をつきなれてしまったエドモンドが、呆れた様子ながらも躊躇いなく地面に膝をつくようにして腰を落とすと、リリーがぱっと手を放し、エドモンドの頬を小さな手で挟んだ。
「ずっと一緒にいられますように」
早口なのはエドモンドに咎められる前にと考えてか。
言い終わると同時にエドモンドの額にキスをした――と思われるが、狙いが外れたようで頭になってしまっている。
しかもゴチンといい音がしたので、顎をぶつけたのではないか。舌でも噛んでいなければよいが、とロバートは危惧した。
ハラハラしてリリーを見守るロバートの立つ角度からは、エドモンドの顔は見えない。
リリーはと見れば、本懐をとげたといわんばかりの満足感を漂わせている。
宿り木、頭ごつん――おそらく本人はキスのつもり――にまだ戸惑っているらしい若き主の為に、やっと意図を理解したロバートは説明することにした。
「庶民の信仰ですので、ご存知ないかと存じますが。『宿り木の下でキスをした二人はずっと一緒にいられる』というおまじないがございます」
これでよろしいでしょうか。リリーに確かめると、大きく縦に首をふる。
どうやらこれがしたくて、宿り木を探していたらしい。
「今、ロバートに聞くかぎりは、恋人同士の願掛けに思えるが?」
ようやく口を開いたエドモンドは、まだ立とうとしない。
「えっっ!?」
リリーが声を上げた。目がこぼれ落ちそうなほどに驚いている。どうやら知らなかったらしい。
「――さようでございます」
あえて口にはしなかったのに、気がついてしまいましたか。「ずっと一緒」ではなく「結ばれる」でございます、と思うロバート。
「お前は中途半端な知識で、わざわざここまで私を連れ出したのか。――抜けているにもほどがある」
しゅんと肩を落とすリリーにロバートの胸が痛む。あれほど喜んでいたのだから、水を差さなくてもいいのに。
「そもそも私に対する願いなら、木などにしなくとも直に言えば済む話だ」
「それでは願掛けにはなりません」
リリーの涙目を見て、ロバートが思わず口を挟んだ。
エドモンドは、ロバートを振り向きもしない。
「私がずっとお前といてやろうと思っても、私から離れるのはお前のほうらしい。すぐに大きくなり、友人を優先して私などとは遊んでくれなくなるそうだ」
それは以前にロバートがエドモンドに話した事だ。
「そんなことないもん。ずっと坊ちゃまといるし、坊ちゃまと遊びたい」
涙で盛り上がった目で訴えたリリーが少し笑ったところを見れば、向かいにいるエドモンドが微笑しているのだろう。
「そうか。なら私もお前に倣っておくか。せっかく宿り木の下にいるのだから」
続きは聞き取れないが、リリーが嬉しそうにしたところを見れば、求める言葉をエドモンドが口にしたのだう。
若き主が額の髪をはらい軽く口づけると、リリーはぎゅっとエドモンドの首に抱きつき肩に顔をうずめた。
「私の肩で顔を拭くな。ロバートに涙拭きをもらえ」とエドモンドは小言を口にするが、リリーの好きにさせている。
――行くのは少し後にしよう。ロバートは宿り木を見上げた。




