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貴公子は宿り木の下に立つ・1

 ある日リリーが「宿り木を見たい」とロバートに言った。正確には「どこかに宿り木はない? おじ様」だったが。


 残念ながら住居近くには宿り木どころか木自体が少ない。そして宿り木は、寄生もとの木が冬になり落葉すれば目につきやすいが、秋の入り口である今は見つけにくい。


 宿り木を知らない様子のリリーにそう伝えると、利発そうな目をくりくりとさせて納得したが、愛らしい顔に一瞬浮かんだ落胆を、ロバートは見逃さなかった。







「宿り木か。また妙な物に興味を持ったものだ」


 朝食の席で伝えた家令ロバートに、今日も端麗な貴公子エドモンドは卵にナイフを入れながら返した。


 よく焼いた薄切りのパンに黄身がトロリと広がるのを、美しく切り分けて続ける。


「宿り木くらい荘園にあるだろう」


――ここから一番近いエドモンド所有の荘園において宿り木を探し、リリーを連れて行き見せてやれ。


 という指示を簡潔に済ませるとこの一言になるのだと、ロバートは理解した。しかし。


「夜では宿り木は見えないと思われますが」


 足元の花ならば、暗くともランタンで照らせば良い。けれど大抵の宿り木は、手の届かない高い位置にあるものだ。


 荘園へは馬車なら二時間もかからない。夜のうちに往復できるが、暗さはいかんともしがたい。


説明するロバートに、エドモンドが蔑みの目を向けた。


「なぜわざわざ夜に出向く必要がある。昼間に行けばよい」


 昼は花売りの仕事があると思うロバートに、エドモンドが指摘する。


「何人で買おうと、一人が買い占めようと売り上げは変わらない」


 ようやく合点がいった。何もリリーが一日中街角に立たなくとも、花を買い占めれば時間が空く。

今まで思い付かなかったのが不思議なくらいだ。


「空く日を作れ。早急に、だ」


 朝食を終えていたエドモンドは、これで話は終いだとばかりに言い放つと、ナプキンをテーブルへと置いた。





 昼間から出掛けようと誘うロバートに、リリーは困惑した様子だった。


 花は全て買い取るし夕方までには戻る、そして何より宿り木を見るのにエドモンドが付き合うと伝えると、一気に表情が明るくなった。


 子供らしくお出掛けを楽しみにする晴れやかな顔は、ロバートの心まで温かくする。


 予定を伝えにひとり、リリーの立つ街角まで出向いたロバートは、この喜びようを若き主に見せられない事を残念に思った。





「見て見て、坊ちゃま。宿り木!」


 リリーが興奮気味に指をさし小走りになる後ろを、エドモンドがつまらなそうに着いて行く。


「ここからでも見える。そもそもそこにあると教えてやったのは私だ」


 そしてエドモンド様にお教えしたのは私です。心のなかで呟きながら、ロバートはそのまた後ろを歩いていた。



 宿り木はやはり見つけにくく、園丁に指示をして周りの枝をあらかじめ落としておいた。大人から見れば不自然だが、リリーが気付く様子はない。


 太めの枝に明らかに違う種類の葉がそこだけ丸く密集しているのが宿り木だ。


「これが宿り木」


 初めて目にしたらしいリリーの感動するさまを、微笑ましく思うロバート。


「坊ちゃま」


 振り返ったリリーがエドモンドの手を引っ張り、木の真下まで連れて行った。



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