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花売り娘が天使様に出会う日・6

 こんなことがなければエドモンドは絶対に足を踏み入れることはない、と断言できる雑然とした路地。実世界だったなら悪臭に悩まされたことだろう。


「おばあちゃんは、お薬を作れるの。ここらではお医者にかからないで、おばあちゃんの薬で治すのよ」



 リリーが一生懸命に説明してくれるので、「かからない」は「かかれない」の誤りだなどと無意味な訂正は止めておく。


「大人は寒くなると背中や腰が痛くなるでしょ。私が膏薬を貼ってあげるの」


 人の役に立っているのだと、嬉しそうにするところが可愛い。夕食までの暇つぶしのつもりで出掛けて――見つけた。




 鼻先の垂れた魔女鼻にぎょろりとした目、垂れた頬。揺り椅子に座る腰の曲がった老婆をひと目見て、エドモンドは精神系の異能持ちであると判定した。


 ほぼ同時にリリーがおばあちゃんと呼ぶこの老婆も、エドモンドが精神系の異能持ちであると察知したらしい。

半眼になり上から下まで隈なく無遠慮に眺め回す無礼を、エドモンドは真っ向から受け止めた。



「おばあちゃん、膏薬貼り替えに来たわ。お役人さんと一緒だけど、大丈夫。この辺の人にお話を聞くだけなの」


ひとりリリーだけが屈託なく振る舞う。


「そうかい。来てくれてありがとう、リリー。ちょうどいいところに来たよ。市場にお使いを頼まれてくれないかい」


 しゃがれ声は意外にも優しい。今引き受けていいものか、エドモンドの顔色をうかがうリリーに「かまわない」と引いた顎で示す。


 リンゴを買ってきてと頼まれたリリーが硬貨を握りしめて駆け出すのを見送り視線を戻すと、老婆は挑戦的な眼差しをエドモンドに据えていた。


「こんなとこまで来て、話があるんだろう」

「精神系の異能持ちだな」

「あんたもだね。だったら、どうした」


 老婆がふんと鼻を鳴らし、リリーに対するのとはまるで別人の投げやりな態度を取る。


「大昔のことを蒸し返しても『知らない』しか言わないよ。もう覚えちゃないね」

「昔のことに興味はない。私が聞きたいのは『これからしようとしている事』だ」



 皺深い顔でもわかるほど驚いた老婆に、エドモンドは薄笑いを浮かべた。


「私に違和感はないか」


老婆はあらためてエドモンドを眺め、眉根を寄せる。


「金持ちだろ。桁外れの異能持ちだ。正直話してるだけでぞっとするね」

「褒め言葉と取っておく。それが分かるとは、それなりの教育を受けたのだな」

「信じないだろうが、これでも学院出の先生について学んだんだよ。色々あってこのザマさ」


笑ったつもりだろう口元は、歪んだようにしか見えない。



「それで、未来ある者に嫌がらせか? 妬みか。恨みを向ける相手を間違えるほど落ちぶれたか。道徳教育とは役に立たないものだな」


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