花売り娘が天使様に出会う日・3
自分ではうまくできなかったのだろう髪を編みなおしてやりたいが、じっと見上げるこのリリーとは初対面だ。
「なにか」
「お顔がキレイでびっくりしちゃう。本当は天使さまでしょう? 」
堪えきれないという風にほうっと息を吐く。この後はきっと。
「それに、どんなお花よりもいい匂い」
深く吸い込んで言うのは、エドモンドの想像通りだった。
「私は天使ではない。花はすべて買ってやるから籠ごと寄越せ」
全部って全部? と戸惑うリリーを尻目に、硬貨を渡して籠を取り上げる。
「もらいすぎだわ」
「取っておけ。代わりにこの後、案内を頼みたい」
黙って聞くリリーは可愛らしいが、こんなに純粋でよく無事に大きくなったものだと感心しつつ呆れる。
無意識に使う異能で害意の有無を感じ取ったとしても、避けるのは自分の知恵と行動だ。
種を植え付けるような大人になってから発動する異能を使われたとするなら、子供時分にリリーの身近にいる者による。
リリーもそう考えたから、エドモンドをこの世界へと導いたのに違いない。
願いを叶えるのは自分の仕事。目覚めたいという願いは必ず聞き届けねばならない。
「花売り娘、名はなんと言う」
「リリー」
「では、リリー。お前の行動範囲にいる者と私を引き合わせてくれ」
リリーの瞳が揺れ、おどおどとした態度になる。物言いが厳しかったとエドモンドは気がついた。
「天使さまじゃないなら、お兄さんはお役人さんなの? 私は孤児じゃなくて母さんと暮らしてる。孤児院へは行かないわ。あんまり悪いこともしてない」
そりゃ、ちょっとはしてるけど。涙が盛り上がり玉となって零れ落ちる寸前。エドモンドは急ぎ内ポケットからハンカチを出し、リリーの頬に押し当てた。
「待て、泣くな。私の言い方が悪かった。この辺の暮らしを知りたいと来たところ、お前に会った。何日もかかるまい、その間の日当を出すから引き受けてくれないか」
泣くほど怖がらせるなど不本意もいいところだ。リリーの濡れた目をじっと見返す。
「お役人さん、悪い人じゃないみたい。いいわ、お手伝いする。ハンカチを汚してしまってごめんなさい」
ペコリとリリーが頭を下げる。
「かまわない。こちらこそ悪かった。詫びと言ってはなんだが、髪が乱れている。直してやろう」
仲直りを提案するエドモンドに照れ笑いをして、リリーはくるりと背中をむけた。




