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貴公子は過保護ぶりを発揮する・2

「エドモンド様、これは」


 若き主が知るわけはないと分かっていても口に出てしまう。


「今読む、まて」


 エドモンドはリリーの頭を自分の胸へぴったりとつけた上で、ひとかけらの遠慮もなく両手をバスローブのあわせ目から差し込んだ。


「これは強情だ。言いたくないと思えば、こちらがどれだけ心配してやっても話しはしない」


 何もない、とリリーが見事な作り笑顔をした時点で、エドモンドは異能を駆使して読むと決めたに違いない。


 少女の素肌に大人の男が手を這わせるのはいかがなものかと思うが、タイアン殿下の得意な方法は「深く繋がる」だと聞く。

それに比べれば格段に上品だと思われる。


「許せ」

リリーの耳元で低く囁いたエドモンドが目を閉じた。



 かかった時間が長いのか短いのか、異能持ちではないロバートには判断がつきかねた。


 そもそも人の記憶を覗くという行為ができるのは大公セレスト家――しかも一部――だけと聞く。世には全く知られない技で、可能であることが稀少なのだ。


 技をかけるエドモンドも消耗するのか、頬には長い睫毛が落とす影とは別の翳りがみえ、目付きが厳しくなっている。


 目蓋を持ち上げてもしばらく、リリーを抱えたまま身動きをしない主に痺れをきらしてロバートから声をかけた。


「何かわかりましたか」

「酷いものだ」


 吐き捨てるようにエドモンドが口にする。

一度口を開けば、そのまま語り出した。






 リリーが花売りをする界隈に、リリーより三歳上の少女が父親と共に住み始めた。

父親の仕事はわからないが娘ベスは花売りをするようになった。


 前にいた場所でも花売りをしていたベスには、客がついていたらしい。その客のひとりがリリーから花を買うようになった。


「そのベスという娘に嫉妬をさせようと思ったのかもしれんが、小娘にはそんな駆け引きは通じなかったようだ」


 エドモンドはそう解釈したようだが、ロバートにしてみれば、そのベスという娘よりかわいらしいリリーに客が乗り替えただけの事と思われる。


「父親はリリーの母の客になっているようだ」


 年頃にさしかかる娘には不快な事実だと、ロバートは推察する。


「そこに先日の愛を伝える日だ。その乗りかえた客がコレに花を贈る一部始終を、ベスとやらが見ていた。コレも見られていると知っていて、気まずさを感じている」



 ロバートはまるで見たことのように思い浮かべた。

困ったリリーが、目が離せなくなるほど美しい笑みを客に向ける姿を。物陰から睨み付ける少女の姿を。


「昨日とうとう我慢がならなくなったらしい。その娘が『私の客を横取りするな。母親が卑しいと娘もいやしい』と市場でリリーを突き飛ばした。コレが『私のことは謝るけど、母さんは関係ない』と反論したことで、さらに怒りを招いた」


聞くだけでロバートは胸が痛む。


「コレは小柄だが、その娘は歳よりも大柄だ。顔を殴られそうになり地面に伏せたところを、蹴られたり踏まれたりされている」


 エドモンドの抑えた口調が、より憤りを感じさせるのはどういうわけか。


「コレは防ぐのに精一杯で――顔に傷でも作ったら母親に気付かれるとでも思ったのだろう――肉屋の主人が助けに入るまで、されるままだ」


「コレが傷ついたのは、その娘のせいではない」

エドモンドは意外なことを口にした。



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