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眠れる愛妃・1

 お戻りは昼前になると聞いていたのに、主エドモンドは朝まだ早い時間に帰宅した。


 昨夜は遅くまで他国の賓客との晩餐会に出席していたはずなのに少しも疲れを感じさせないのは、いつもながら感服する。



「朝食に出してやれ」


 玄関ホールに急ぎ迎えに出た家令ロバートが手渡されたのは桃。毎年タイアン殿下に献上される極上のもので、紙に包まれている今もよい香りを放っている。


「アレはまだ寝ているのか」


 アレとはもちろんリリー奥様のこと。もうそろそろ起きる頃合いだが、今日はまだ動き出す気配がない。


「私が起こしてやろう」

「では、後ほど朝食をお運びいたします」


エドモンドは軽く顎を引くと、寝室へと向かった。









 いやに静かだ、とロバートは思った。なにがどうとは言えないけれど妙な胸騒ぎがする。


朝食を運ぶ前に一応の確認を。扉を叩いた。


「入れ」の声を聞き足を踏み入れると、窓のカーテンは開いているものの寝台にはひとり分の盛り上がり。

 主エドモンドは安楽椅子に足を組んで座り、肘掛けを使って体の前で指先を軽く重ねていた。



 注意深く室内の状況把握に努めるロバートを気にすることもなく、金茶の瞳を一点に据え物思いにふけるエドモンドの面差しは、美しさが過ぎて凄みを感じさせる。


 想像もつかないことが今ここで起こっている、とロバートは瞬時に理解した。叱責は覚悟のうえ声を掛けて主の思考を中断させるか、黙して待つか。



 ひとまず奥様のご様子を。子供の頃からロバートをおじ様と呼ぶリリーは、寝間着姿を見られることに頓着しない。

軽く黙礼してから寝台へと一歩近寄ると、エドモンドが声を発した。


「深い眠りについている」


――深い眠り。頭のうちで繰り返して、氷水でも浴びたかのようにぞっとして主に目をやれば、ゆっくりと瞬きをして続ける。


「勘違いするな、死んだという意味ではない。呼んでも揺さぶっても起きない。それほど深く眠っている」



 驚かせないでください、心臓が凍りついたかと思いました。と文句を言いたくとも飲み込むのが家令というもの。

ロバートは表面上平静を装い、体ごと主に向き直った。


「奥様は体調がお悪いのでしょうか」

それならば医師の手配を。


「いや」

エドモンドは即座に否定した。


「では、お疲れがたまっておられて」


一昨日昨日とエドモンドが留守で、のんびりとしたリリーを思い浮かべる。


「私の留守の間に、それほど遊びほうけたか」


皮肉げに問われて、ロバートは頭を振った。それはない。


「……冬眠」

「まだ冬までには間があるな」


では、いったい。


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