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森の秘密

リリーが教えてくれた森の秘密――それは。

「森の奥にあったのは塀だった。ずっとずっと塀だった」


 皆がテラスから一階に移動しお茶も充分に行き渡った頃、エドモンドとリリーは戻ってきた。


 突き止めた森の真実について、ロバートは「それはそうでございましょうとも」と思うばかりだが、リリーはさぞがっかりしたのではないかと心配すると、意外にも満足そうにしている。


 では主エドモンドは。と様子を窺えば、こちらはこちらでご機嫌が良い。ロバートにしか分からない程度ではあるが。



 それは、やきもきしながらお帰りを待っていたと少しも態度に出さないのに、珍しく「待たせた」と労われたことからも察せられる。


 この感じは「アレの望みを叶えてやった」と悦に入った時のものだ。船遊びからのピクニックを思い出した。



 敷地内といっても森はそれなりに広い。先には何もないと知っていて、主エドモンドがリリーの好奇心に付き合ったことに感心する。


「それが私の仕事だからな」


ロバートの考えを読んだかのように、主は片頬だけで笑んだ。








 エドモンドの在宅時には、常にお互いが視界に入る場所にいる。そんな時のリリーは、とても愛らしい。


 そして「坊ちゃまのいない日」のリリーはどこか気が抜けていて、可愛らしい。


 その両方を目にすることになるロバートは、エドモンド様にも「ほわっとしたリリーお嬢さん」を見せて差し上げたい、と残念に思うことがある。



「おじ様、明日は坊ちゃまお帰りになる?」

刺繍を施した針山を作る手を止めてリリーが尋ねた。


「はい。お寂しいですか」

「そうでもない」


 即座に返されて、ロバートはつい緩んだ口元をぐっと引き締めた。


「だって、おじ様がいてくれるし。お夕食は好きなものばかりだもの」


 主エドモンドのいる日には、ディナーらしいディナー。リリー奥様おひとりの日は、手で食べられるものや庶民の若者が好むような味つけにしている。おやつも栗クリームの上からカスタードクリームを乗せた名のない一皿など、ひたすらにリリーの好みを追求している。



 それもこれも「おひとり時間もいいものだ」と思っていただきたい、というロバートの心遣いだ。そのかいあって。


「こんなに幸せでいいかしら。私、生きてきたなかで今が一番幸せかもしれない」


見ているこちらまで幸せになるような微笑を浮かべる。



「いつも何かしら心配ごとはある」子供の頃にリリーがそう言ったことを、ロバートは覚えている。


 聞いた日には、胸が痛む思いをした。あの日のリリーお嬢さんに言ってあげたい。大丈夫、この先には幸せが待っていますよ、と。


「おや、エドモンド様ならこうおっしゃいますよ。『これくらいで』と」


 ロバートはじんわりと熱くなる目元を笑いで誤魔化した。


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