白馬に乗って妃殿下登場・7
「坊ちゃま! 係の人に見つかったら大変。早く隠れて!」
淑女だけと決められたコースに闖入者。レースが不成立となってしまっては、ホワイトナイトの勝利がなくなる。それはプルデンシア姫の不名誉に繋がる。
焦るリリーに、エドモンドが珍しいものでも見るかのような目つきをする。
「こんな大きなものをどこに隠すと言うのだ。それにお前は忘れているようだが、私に意見できる者などいない」
それは違う。意見できないんじゃなくて坊ちゃまが聞かないだけ、とリリーは知っている。
とにかく諦めるしかないのは理解した。これで勝ちがなくなったとしても悪いのは私じゃない、坊ちゃまだ。
急に凛々しい雰囲気になったお馬様に、坊ちゃまは優しくていい人だと伝えるにはどうしたらいいかと考えていると、スカーレットが器用に木を避けながら並び速度を揃えて歩く。
よく見れば鞍もない。ワガママスカーレットは、坊ちゃまとイリヤにはいい顔をするのだ。
リリーが横目に見ると、スカーレットもこちらを見ていて目が合った。相変わらず感じが悪いと思えば「あんたこそ」と言われている気がする。
「――スカーレット。お前もスカーレットと張り合うな。そのようだから白馬に甘く見られるのだ」
名前を呼ぶだけでスカーレットをしゅんとさせてから、リリーにお小言。予定外の二周目に入ったことを指しているのだろう。お馬様の緊張が伝わる。叱られるのは可哀想、頭を巡らせるうちに良い言い訳を思いついた。
「違うの。これはウイニングランなの」
「は」
出たのは滅多にない坊ちゃまの「は」。本当に呆れた時にしか口にされない希少なものだ。
しかも正装での「は」は、記憶にない。同じく正装での乗馬は今後も見られないかもしれない貴重なお姿。
本日も比類なく素敵で、坊ちゃまの正装をお着替えから見るのが大好きなリリーとしては、ついうっとりと見惚れてしまう。
「危ない、よそ見ばかりするな。と言いたいところだが、ホワイトナイトに限ってその必要はないようだ」
リリーがなにもしなくてもお馬様がよいように計らってくれると見て取ったらしい。エドモンドの纏う空気が柔らかくなる。
好きなだけ坊ちゃまを眺めていいというお許しが出た。
ふたりで並んで馬に乗る機会はこれまでなかった。リリーの考えが筒抜けなのはいつものこと。
「馬は危ないからな」
坊ちゃまの言うそれは「賊に狙われて」だろうか。
「そう取ったか」
それならこの森は、どこの森より安全だと思う。広いけれど宮殿の敷地の一部だ。
もうしばらくこの時間を堪能したいけれど我儘は言いたくない。なぜなら私はスカーレットじゃないので。
これで我慢しようと思う。
「坊ちゃま、手をつなごう」
「どこからそうなる。お前の考えることは、よくわからない。しかも馬にとってかなり高度な要求だ」
そうでもないかも。だって坊ちゃまはちょっと笑っている。
エドモンドの手が伸びた。リリーも伸ばすと、よいタイミングでホワイトナイトがスカーレットに寄せる。
「ほら、簡単」
坊ちゃまエドモンドの手を握って得意げに言うと、お馬様が笑った気がする。スカーレットは知らない。
「この先にはなにがあるの」
「知らん。行ってみようと思ったことはない」
一緒に行けたらいいのに。期待を込めて先を見つめるリリー。
「お前が行きたいと言うなら。で、いつまで手を繋いでゆくつもりだ」
エドモンドが繋いだ手を少し持ち上げて見せる。リリーの元気のよい声が響く。
「行けるところまで!」
長いお話にお付き合いくださり、ありがとうございます。
良い感じに〆っぽくなりましたが、まだ続きます☆
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