白馬に乗って妃殿下登場・6
「スカーレット」
最下段につくより先に呼ぶと、エドモンドは近づいた馬に飛び乗った。本日は見せるために連れて来ているので、鞍を着けてはいない。
気にすることのないエドモンドに対し、「これで一着正装が駄目になった。早々に誂えなければ」と思うロバート。
スカーレットの気性の荒さを知る者がいるらしく、従順な様子に「おお」とどよめきが起こる。
驚くのはまだ早い。エドモンドはコースを無視して一直線に森へと向かった。途中にはいくつもの花壇が。
踏み荒らすのだと誰もが思ったことだろう。
おおかたの予想を華麗に裏切り、見事な手綱さばきで障害となる物を飛び越していく。
「素敵……」
「信じられないわ。この良き日を神に感謝したい」
これはおそらく「信者」と裏で呼ばれる方々のお声。
障害を飛越する訓練などスカーレットはしたことがない。それを初回で成功させてしまう主エドモンドの凄みよ。
内心舌を巻いているロバートの隣に来たのはファーガソン。タイアン殿下の侍従長だ。
「エドモンド様はさすがの腕前でございますね」
「タイアン殿下もおできになりますでしょう」
いえいえと、ファーガソンが謙遜する。
「タイアン殿下は、さほど乗馬を好まれませんので」
「そこは御兄弟、似ておいでなのですね」
言葉が返らない。主エドモンドも乗馬は特に好まなくての、あの腕前。取りようによっては嫌味に聞こえたかもしれないが、ロバートに悪意はない。
それより、このままおふたりで荘園館までお帰りになられるなどということは……そちらの方がはるかに気掛かりだった。
ホワイトナイトがリラックスしている。リリーにも分かるほどだ。
「お馬様も、宮殿での暮らしは疲れますか。いつも誰かに見られているから、キリッとしていなくちゃいけないものね。ご同情申し上げます」
私には無理。リリーの語りに「分かっていただけますか」とホワイトナイトが答えたと仮定して、話を続ける。
「でも、屋根と乾いた寝床があって、キレイな水と食べ物をもらおうと思ったら、どうしたって我慢はつきものなのよ。人も馬もそこは同じね」
不意にホワイトナイトが警戒するかのように体を固くして耳を動かす。
森の中に淑女の乗った馬が他にもいるので、話し声や足音が切れぎれに伝わってくるのは、ずっとのことなのに。
「お前が我慢をしながら生活のために私といるとは知らなかった。よく覚えておこう」
いつの間にか木々の向こうを並走していたのは――
「坊ちゃま!?」
淑女ではなく、公国一の貴公子と呼ばれるエドモンド殿下、リリーの夫だった。




