白馬に乗って妃殿下登場・4
二階の広いテラスからは、庭全体が見渡せる。
出走馬は八頭。いずれも人馬そろって飾り立てられていて壮観だ。テラスのそこここから歓声があがるのは、家族に参加者がいる家だろう。
他に比べて一回り大きい白馬に跨るのはリリー。明るい色のドレスのなか、ひとりだけ紳士仕立ての乗馬服は目立ちに目立つ。
「男装の麗人」という声がエドモンドの耳にも届いたくらいだ。
一列に馬が並んだところで、レース開始の声がかかる。だからといって急ぎ走らせるわけでもない。
テラスを見上げて優雅に挨拶を交わすご令嬢がいるなか、ホワイトナイトだけが瞬時に反応して、素晴らしいスタートをきった。
馬体を躍らせて、すぐにトップスピードにのる。見る見るうちに遠くなった。大歓声に気を取られ、ホワイトナイトが駆け出したことに気付かない貴婦人がいるくらいだ。
「いい? 私が落ちたらゴールしたことにならないから!」
エドモンドは歓声の中リリーの声を聞き分けて、僅かに口角を上げた。
これよりしばらく前、レース開始より先にテラスへ着いたロバートは、静かに主エドモンドの斜め後ろに控えた。後ろにも目があるかと本気で思うほど主の察しが良いのはいつものこと。
「アレは」
リリー奥様のことだ。
ホワイトナイトを「お馬様」と呼び語りかけた内容は、ロバートには思いもつかないことだった。
昨日の雨で下がぬかるんでいる場所がある。できればよけて走って欲しいけれど、それは難しいと思う。私の乗馬パンツとお馬様は白い。泥がつくと汚れが目立つ。
泥跳ねを避けるには先頭を走るしかない。そうすれば最小限の汚れで済む。
白くて綺麗なお馬様が他の馬のせいで泥々になるなんて、プルデンシア姫に申し訳が立たないではないか。
ホワイトナイトが目だけを動かしリリー奥様を見た……ようにロバートには思えた。
分かってくれて嬉しいわ、共に頑張りましょう、プルデンシア姫の為に。
奥様はそう締めくくったのだった。
簡潔にまとめることはとても難しい。ロバートは他に聞こえないよう声を低めて、ありのままをエドモンドに伝えた。
黙って聞いていた主が不機嫌そうに俯いた。一見機嫌を損ねたように見えるが、これは違う、緩む頬を隠すためだとロバートには分かる。
「アレは勝ち気なところがあるから一位を目指すのかと思えば」
なんともまあそんな理由とは。笑いと共に飲み込んだ言葉は容易に想像がつく。
顔を上げたエドモンドは、いつもの取り澄ました表情に戻っていた。
他を引き離して森へと真っ先に入っていったリリーとホワイトナイトは、木立に遮られて目視できない。
コース整備はしてあるものの、枝や根っこに引っかかりはしないかと、ロバートの心配は膨れるばかり。
時間があればコースを歩き自らの目で確認しておきたかったくらいだ。
順位などどうでもいいから、どうかご無事でお戻りください。
ロバートは祈る気持ちで森を見つめた。




