白馬に乗って妃殿下登場・3
「迷惑をかける、エドモンド」
「言うくらいなら無計画に子を作るな」
揃って昼の正装に身を包み話すのは、麗しのセレスト兄弟。にこやかな弟タイアンと冷めた表情の兄エドモンドだ。
「そうは言っても、なかなかね。聖女様にも一言お礼を言いたいのだけどお見かけしなくて」
「ロバートと厩舎にいると聞いている」
「どうして厩舎に?」
「ここ数日会わない私が理由を知るはずがない。不得手な乗馬に緊張しているのではないか」
嫌味がたっぷりと含まれていても、タイアンはいつものことと平然としたもの。
淑女杯と称しているが、速さは競わない。優雅な横座りで自慢の馬に乗った貴婦人の美しさを愛でるものだ。
横乗りには専用の鞍と乗り方がある。学院の授業は多数派の男子に合わせているので、横乗りは教えていない。
体をひねる姿勢は負担がかかることから、エドモンドはリリーにさせるつもりもない。
乗馬服が用意してあったのは、ひとえにロバートの準備のよさだ。
離宮に来ているはずのリリーが顔を見せない。不思議に思いエリックを呼び尋ねると、乗馬服で到着しその足でロバートを連れて厩舎に向かったと言う。
――アレはなにか多大な勘違いをしているのではないか。そんな気がしてならない。
「お待たせいたしました。準備が整いましてございます」
侍従長ファーガソンが来客の訪問を伝える。リリーと話す時間が取れない。エドモンドは一抹の不安を抱きながら、離れていても呼べば来る犬笛のような道具をオーツに発明させよう、と決めた。
プルデンシア姫の馬の手綱を任されたからには、勝たなくては。リリーは並々ならぬ決意を漲らせて馬を見つめた。
下手に出るのは、馬に舐められて言うことをきかなくなるからしてはいけない、と教えられた。
でも。白騎士と呼ばれるこの馬のほうが、私より生まれも育ちもいいんじゃない?
「ホワイトナイト殿は、大変おきれいなお馬様でいらっしゃいますね。さすがはプルデンシア姫のお馬様。私、続柄といたしましては姫の夫の兄の妻にあたりますリリアンと申します。折りいってお話がございます、しばしお耳を拝借」
「奥様、そのようにへりくだらずとも宜しいのでは。プルデンシア妃殿下と奥様のご身分は同等でございます」
リリーのすり寄り作戦を見守っていたロバートが、たまりかねて口を挟む。
「なにを言うのおじ様。お願いするのは私、されるのはお馬さんよ。落とされるのは私、落とすのはお馬さんなんだから」
「それでしたら、ホワイトナイトにエドモンド様より声がけをして頂くのは」
「おじ様、淑女杯はいわば淑女同士の競い合い。紳士のお手を借りては、ズルだわ」
してはならないと諫めたリリーがホワイトナイトとの会話を再開する後ろで、ロバートはエドモンドの渋面を思い浮かべていた。




