白馬に乗って妃殿下登場・1
セレスト家では、年に一度、夏の離宮に国内の貴族を招きガーデンパーティーを開くことが恒例行事となっている。
いくつかのお楽しみあり、そのうちのひとつが乗り手が女性限定の淑女杯と呼ばれる競馬。コースは馬場ではなく、離宮の庭からスタートし森を巡って広大な敷地を駆け抜けまたスタート地点に戻ったらそこがゴールだ。
紳士淑女は二階の位置にあるテラスから観覧する。森を走る間は見えないので、出てきたら順序がまるで違っているのは例年のこと。障害物はなく、コースを違えぬよう係員が等間隔で配置されている。
「だからって、どうして私が」
綺麗なドレスを着て一日笑っていればいいと思っていたのに、急に淑女杯に出てくれなんて、話が違う。
乗馬服を見える位置に掛けた家令ロバートに、リリーは、少しばかりお断りをしたい雰囲気を出して尋ねた。
妃殿下とよばれるようになり初めての夏のガーデンパーティー。淑女杯なら話には聞いていた。
お昼を食べていい感じに仕上がった皆さんを「淑女杯はテラスからよく見えます」と二階に移動させる手段。そして手早く一階を片付け、お茶の支度をするらしい。
「プルデンシア姫が出るんだと思っていたけど」
大公家からも参加したほうが盛り上がるというわけで、今年はタイアン殿下の妻であるプルデンシア妃殿下が出走することになっていたはずだ。
「それが、まだはっきりとはいたしませんが、ご懐妊あそばされたのではないかと……」
「赤ちゃんができたかもしれない?」
ここだけの話に、と家令ロバートは目顔で頷いた。リリーが顔をほころばせる。
「それは、おめでたいわね! 誰にも言わないから大丈夫」
そういう理由なら、嫌だとごねてはいられない。でもひとつ気になることがある。
「プルデンシア姫が出ると言っていて急に私に代わったら、おかしいと思う人がいるんじゃない?」
「ご心配には及びません。『淑女杯には妃殿下のおひとりが参加なさる』とのみ知らせてありますので、不自然には思われないかと存じます」
事も無げに返すロバートに、リリーはあらためて感心した。
「さすが、おじ様。わかってたみたいに抜かりがないのね」
「おそれいります。私ではなく大公家にお仕えする者が差配しておりますので」
貴族の女性が馬に乗る時は、淑女乗りと呼ばれる横乗りが主。スカートのまま乗るのに適しており、品を損なうことがない。
けれど、リリーは淑女乗りが苦手。馬にも好かれないので乗馬が下手なのは仕方がないと思っていた。こんなことになるなら、練習しておけば良かったと思っても遅い。ガーデンパーティーは明日だ。
乗馬服が紳士と同じ形だから、跨っていいということか。それならなんとかなる。リリーは目をきょろりとさせた。
「落ちないように気をつける」
おじ様ロバートは深く深く頷いた。
「天敵は優しい系美男子」が完結いたしましたので、こちらの番外編を投稿いたします。
久しぶりのリリーと貴公子エドモンドをお楽しみください。
「天敵は優しい系美男子」にも、元気な女の子が登場します。ぜひご一読のうえ甘めの評価など、よろしくお願いいたします☆
またお目にかかれますように




