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貴公子は過保護ぶりを発揮する・1

来た時から違和感はあった。


 今も微妙に肘の辺りをかばう仕草をするリリーに、ロバートは目を止めた。


柔かなタオル地でさえ擦れて痛むのか。


 親鳥がヒナにエサを与えるように、今夜もエドモンドはアップルパイを小さく切り分けて、リリーの口に運んでやっているが、黙々と食べる様子はおとなしすぎるほど大人しい。


 どうにもおかしい。たまりかねて家令ロバートは、食べている途中にもかかわらず口を挟んだ。


「お口に合いませんでしたか」


 聞かれている理由がわからないらしく、リリーが不思議そうな顔をする。


「いつもなら、もう少しはしゃいでいらっしゃるのに、今日はあまりにお静かなので」


 そう? とでも言いたげにロバートを見るリリーには、自覚がないらしい。


 手を止めて見極めるような目付きでそれを眺めるエドモンドも異変に気付いていないはずはない、と考えてロバートは続けた。


「何かお困りごとでもありましたか」


 灰緑色のリリーの瞳が揺らぐ。ゆらぐと内側から光が一筋差したようになる。リリーの心の動きは正面から見れば、大人であるロバートにはすぐにわかってしまう。


あったに決まっている。


「なにも。なんにもないわ、おじ様」

「ですが」


リリーが子供らしからぬ美しい笑みで否定する。

「少しつかれたかも――子供が疲れたとか言うのはダメなんだけど」


 子供でも疲れることはあるだろうが、誰かがリリーにそう教えたのだろう。


「もう良い、ロバート。コレが子供ながらに疲れたなら、食べさせて寝せる。それが一番だろう」


 エドモンドが気持ちのこもらない口調で遮り「ほら、まだ残っている。こっちを向け」とパイをまた口に入れてやる。


 随分とあっさりしたものだと、若き主の態度に釈然としないながらも、ロバートは軽く一礼して引き下がった。





 いつものように火の近くで、すよすよとリリーが寝息を立てているが、姿勢が普段とは違う。


 やはり気になると思うロバートの前で、エドモンドが膝の上に乗るリリーの体の向きを慎重な手つきで変えた。


それでも痛かったらしい。動きと共にリリーの顔が心持ちしかめられる。


「痛むか、すまない」


 エドモンドが「すまない」などとこれほど簡単に口にするのは、ロバートの記憶にある限り初めてだ。


 ゆっくりと、ウサギのバスローブの袖を肩口までまくり上げる。一目見るなりロバートは表情を険しくした。


「これは――」


 リリーの肘は右も左も擦り傷ができ、まだ血が滲みそうな状態だった。打撲痕もある。


 エドモンドが丁寧に袖をおろし、今度は横抱きのままローブの裾をめくり脚の付け根近くまで露出させた。


「女の子になんということを」とたしなめるべき行為だが、エドモンドがしなければ間違いなくロバートがしただろう。


 はたして。膝にも大きな擦り傷と生々しい内出血とが広がっていた。太腿にも打撲痕がいくつかみえる。



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