見慣れない服を着た見慣れない顔のきみ・1
公都を離れる前にとオーツの店に挨拶に出向いたイグレシアスは、「アイアは元気だった?」と聞かれて、「はい。皆も」と端的に答えた。
隠しても仕方がない。
「活力になったのなら、何よりだ」
教育者の顔で言うオーツに「先生の活力源はセレスト家、特にエドモンド殿下ですね」と思うだけで口にはしない。
こちらを観察して「アイアにも帰国の挨拶をしたい?」と思いもよらない事を言われた。何と返すのが正解なのか。考えあぐねて黙るイグレシアスに。
「この後少し時間があるなら、今日アイアのいる所を知っているよ」
見慣れない服を着て。丸い目はすっきりとした切れ長に、頬はシャープに。特徴を削いで、美人と称される顔に近づけているけれど、壇上、聖職者の列にいるのは、間違いなく三日前に会ったリリー・アイアゲートだった。
手に持つ笏についた貴石の輝きがイグレシアスの瞳を射る。
オーツに案内されたのは、公都で最も格式が高いとされる教会での洗礼式。貴族の幼子数人とその親族が集っていた。
部外者なのに失礼にはあたらないだろうか。イグレシアスの心配を察したように、オーツが言う。
「縁戚の子が、今大泣きしている子だよ」
それより君にはもっと気になることがあるんじゃないか、という口ぶり。
「初めてお目にかかるかな。今回は公式訪問ではないから、機会がなかっただろう。あの方が王国国教派により認定された聖人で、今は公国支部長でいらっしゃるリリアン・セレスト殿下だ」
淡々とした口調で告げられる真実を聞きながら、イグレシアスは様々な疑問が湧くのではなく解けていく気がした。
聖女のメダル、特殊な任務、なかなか集まれないという理由、街着にしては質の高い服。それに繋いだ手、学生時代より滑らかで指先まで荒れがなかった。
「よかった」
「――君も立派な紳士だね」
イグレシアスから零れた言葉に、オーツが穏やかに返す。
あとはただ黙って壇上を見つめ続けた。
洗礼式は滞りなく済み、人々がざわめき始める。このまま帰るのだろうと思っていると、オーツがにこりとした。
「リリアン妃とは面識がある。気さくな方だから、急なご挨拶でも受けてくださると思うよ」
返事を待たずに颯爽と歩き出すオーツの後を、イグレシアスは慌てて追った。
笏を従者に預け退出しかけたリリアン妃が、ふと顔をあげてこちらを見た。




