遠い国から来た友人・10
ジャスパーの胸のあたりに、ふわりとした温かみが広がる。
「お疲れね、ジャスパー。そろそろお休みするべきじゃない?」
アイアゲートの声がした。ちらりと見るとぐっすりと眠っている。
それに頭のなかに直接話しかけるようなこれは、かつて試作品だと言ってくれたネクタイピンの「効果」だ。
自分の限界を知らないジャスパーに「ここがあなたの限界です」と伝えるのが、このタイピン。
――疲れが誰のせいだとお思いですか。
と言いたいが、一方通行で会話はできない。
他にも不思議で実用性のないものを時折もらっていたから、今日の「道案内機能つきのペンダントヘッド」もアイアゲートなら可能だと断定できる。
夕日の差す海辺で、アイアゲートと殿下の親しげな様子に内心ハラハラしながら見守っていたジャスパーは、別荘の庭に人のいる気配を察知した。
目を凝らしていると、足音を忍ばせて近寄ったのは自家の馭者だった。
この別荘付近をエドモンド・セレスト殿下が借り上げておられるので、夏の間巡回警備を組んである。
だからアイアゲートが「遊び場」としてここを提案した時に、反対しなかった。
むしろ最適と言っていい。
軍人あがりの馭者には、不審に思われぬよう家紋付きの馬車を目立つ場所に停め辺りを見てくるよう言いつけた。その報告だろうと視線を合わせると、意外なことを言い出した。
「エドモンド殿下の家令ケインズ様が、お越しになっています。言伝を預かりました。『別荘の庭に、軽食の準備を整えました。奥様の希望があればどうぞご活用ください。空腹ですと悲しいお顔をされますので』」
おそらく一言一句違えずに伝えた馭者に、家令ケインズ殿の幻影を見たようで、ジャスパーの頭はツキリと痛んだ。
食べずに帰ったとしても、ケインズ殿は黙って片付ける。そしてアイアゲートにも何も言わないに違いない。
さて、どうすべきか。ジャスパーの視線の先では王子イグレシアスと元聖女妃殿下が手を繋ぎ額をつきあわせるようにして話している。
そして、馭者は返事を待っている。
「『ご配慮いたみいります。お帰りは私が責任を持ってお送りします、必ず今夜の内に』」
細やかな気配りで知られる家令の予想通りであろう言葉を返し、ジャスパーは大きく息を吐いた。




