遠い国から来た友人・9
ペンダントヘッドは聖女の弟子の証。一番弟子はエリックなので、一番を持っているのはエリック。
聖人番号、支部番号、弟子番号が刻まれていて、これを所持する人物は教会にとって重要な人物であると認められ、庇護される。
弟子の危機を救うのは聖人の務め。リリーがゆくまで守ってくれるはずだし、いざという時のために日頃から方々へ献金している。
リリーが思うに聖女の力は金の力。さらにリリアン(元)聖女の夫は公国一の貴公子エドモンド・セレスト殿下で、聖人認定を後押ししたのはベルナール家。リリーは史上最強聖女と自負している。もちろん自慢げに言ったりはしない。
自らの力は、有事には存分に発揮するつもりだ。そう、大切な友人を守るためなら何だって利用する。
口に出さない固い決意がジャスパーに伝わったらしい。もの問いたげな顔つきをリリーへ向ける。
でも、イグレシアス公子の前ではできないお話だ。
「ジャスパーも欲しいのね。今日には間に合わなかっただけで、みんな分用意するから大丈夫。でも、ジャスパーは私の力なんて必要ないと思うのよ」
泣く子も黙る名門貴族後嗣の秀才は、声なき声で「心外です」と伝えてくる。「モノを欲しがってるんじゃない」と言いたいのだろうけれど、ひょっとすると仲間外れにされたと感じて、ひとりおうちで拗ねるかもしれないもの。
私も眠い。ご用は済んだからもういいかなという気持ちを込めて、ジャスパーとイグレシアスに一度にっこりしてから、リリーは目を閉じた。
こんな早さで!? と驚くほどすぐにリリー・アイアゲートは寝てしまった。
膝の上に顔を伏せて熟睡するリリーの髪をイグレシアスが撫でているのは、頭をぶつけないよう固定するため。もしくは愛猫と無意識に混同してのことに違いない。
ジャスパーは無理やりそう解釈した。
「さっきの彼女が導いてくれる話は、異能?」
異能という言葉のない国から来たイグレシアスが、抑えた声で尋ねる。
「だと思います」
「ジャスパー君にも分からないの?」
「少しも。理解できるのはオーツ先生他数人くらいではないでしょうか。ですが理解できないからといって、疑う気持ちはありません。アイアゲートが『できる』と言うなら、出来るのです」
そんな仕組みがあるとは知らなかったが「聖女の弟子」を宗派を越えて守る仕組みは、ジャスパーにもなるほどと思える。
理解を超えるのは「道案内」だ。異能とはいえ、何をどうしたらそんな事が可能なのか。
そんな力は聞いたことがないし、これまで存在しなかっただろうと思う。
オーツ先生と遊ぶうちに編み出した技のひとつかもしれないとジャスパーは推測した。




