遠い国から来た友人・4
「砂場じゃなくて砂浜だね」
海を前にして明るく笑うイグレシアスとは逆に、ジャスパーは少しお疲れ気味。
グレイ家の馬車は四人乗りなのに、無理やり五人乗ってこの浜辺まで来た。
「座席が狭い」
リリーがスコットと騒いでいると、公子が「僕の膝にのる?」と提案した。
いい考えだとリリーが頷くより先に「それならスコットがカミラを乗せるべきでしょう」と、ジャスパーが横口をいれる。
結局リリーとカミラとスコットがぎゅう詰めで並び、向かいにジャスパーと公子が座った。
馬車のなかなら、何を話しても大丈夫。イグレシアスが「猫を飼いはじめた」と言い、ジャスパーが「名前が、まさかアイアだなどということは……」と尋ねる。
「ちょっと本気でつけかけたけど」
「本気で!?」
目を丸くするリリーにウインクを投げるから、これは冗談なのだろう。
「グリスにした。瞳が緑がかった灰色なんだ。ずっと見ていたくても、暖炉の前に来るとすぐ閉じちゃってね。撫でさせてはくれるんだけど」
「誰かさんみたい」
「カミラ、それもう私って言ってる」
カミラとじゃれてうふうふしていると、ジャスパーが「息苦しくありませんか」と小窓を開けるのすら、面白い。
馭者はリリーの示した道を走り、夕日が落ちる前に海岸へと着いた。
「わあ、素敵」
まさか海に来られるなんて思わなかったと、カミラが嬉しそうにする。
「ね、今日はお天気がいいから絶対にキレイだと思ったの」
リリーの鼻が得意げにピクリとする。
「裸足になってもいい?」
ジャスパーに許可を得る。
「どうして私に聞くのです」
嫌そうに、本当に嫌そうにジャスパーが返すけれど、それでめげるリリーじゃない。
「なんとなく?」
「――止めても、脱ぐのでしょう」
やり取りを黙って聞いていたイグレシアスが。
「相変わらず仲がいいね。職場も一緒なの?」
ジャスパーはなんと答えるのか。スコットとカミラは手を繋いで、少し離れたところをいい雰囲気で散策している。
そう言えば吸い付き魔だったスコットは今はどうなのだろう、改善されたのか。
そんなことを考えながら、こちらへ背中を向けていてくれる紳士方のご厚意に感謝しつつ、リリーはゴソゴソと靴下をベルトから外して裸足になった。




