遠い国から来た友人・3
「公子!!」
カミラと話していたテンションのままリリーが飛びつく。
イグレシアスは口では「おっと」と言いながら、少しの危なげもなく抱きとめた。
「久しぶりだね、アイアゲートさん。会いたかった」
「私も! 私もです、公子。みんなと一緒の『アイア』でいいのに」
もう一度ぎゅっとしてから「さん」はいらないと伝えて、公子の顔を見る。
リリーを見つめるイグレシアス。大きな笑みはあの頃のままに、精悍さが増していた。
いつの間にか椅子の背に手をかけたジャスパーが、落ち着いた声を出す。
「ひとまず座りませんか」
そうでした、ここでわいわいしていては昼餐会が始まらない。
公子に「どうぞ」とすると「いや、その席に座るのは君でしょう」と笑われる。
リリーは久しぶりの再会に舞い上がっていると自覚した。
カミラもスコットもそしてジャスパーも、お互いの近況を口にしない。イグレシアス公子への配慮だ。どこで誰が聞いているか分からない。
それでも会話ははずみ「ジャスパーとこんな風に会えるなんて」とスコットは繰り返した。
「私も皆とかわりませんが」
ジャスパーが苦笑する。
身分差はもちろんだけれど、卒業と同時に結婚したジャスパーには妻子がいる。スコットは、妻子が領地にいてジャスパーは公都邸にひとりだなんて知らないから、余計に「なかなか会えない」と思うのだろうと、リリーは分析した。
坊ちゃまは王国訪問中なので、帰りを急ぐ必要がない。せっかく会えたのに、このまま別れるのは惜しい。リリーは目をくりんとさせた。
「ジャスパー、この後の予定は?」
「特に何も」
ジャスパーが慎重な口ぶりで返す。リリーは食後のお茶を飲んでいる公子に視線を移した。
「公子は?」
「晩は会食も入れていないから、宿の近くを見て回るくらいかな」
よし。
「カミラとスコットは暇でしょ? 」
勝手に決めつける。
「ひどいよ、アイア」これはスコット。
「ヒマよ」これはカミラ。
それじゃ、決まり。うふふと笑いながら誘う。
「ねえ、みんなで遊びに行こう」
「どこに」
警戒心丸だしで聞くのはもちろんジャスパー。
「砂場」
みんなのポカンとした顔が珍しい。
「この季節なら、砂場が最高よ」
リリーは自信たっぷりに告げた。




