遠い国から来た友人・2
カミラと連絡をとればスコットがついてくるのは、結婚しているから。
イグレシアス公子の公都滞在期間は、聖女認定委員会の特別選定委員として坊ちゃまエドモンドが王国を訪問する日程と重なった。
この上ない好都合。これは神様が献金を欠かさない私にくれた贈り物なのかもしれない。
リリーは「坊ちゃまに言わずにおく」と決めた。
おじ様に計画を打ち明けると「やっぱりエドモンド様に事前にお伝えするべきなのでは?」 というお顔をされたけれど、押し切った。
「坊ちゃまにバレたら、私に脅されたって言えばいいわ」
「奥様に、脅される。私がですか」
「『坊ちゃまに告げ口したら、毎日のおやつに文句を言ってやる』っておじ様を脅した、と言えばいいわ」
「――お召し上がりには、なられるのですね」
おじ様が用意してくれたのだもの、食べるに決まってる。力強くリリーが頷くと、ロバートは小さく笑った。
「毎日お叱りを受けては、困ってしまいますね」
でしょう、そうでしょう? 顎を上げ胸を張るリリーに「奥様のおっしゃる通りに」と、優秀な家令は頭を下げた。
リリーとカミラが会うのは、カミラの結婚式直前に花嫁控室で会って以来、一年と少しぶりだ。
待ち合わせの店にリリーを送り届けたのは、ロバートといつもの馭者。
入り口に看板もない完全紹介制のレストランは、流行に敏感なスコットのオススメ。
個人のお宅のような内装の部屋に案内されると、先に到着していたカミラとスコットが立ち上がった。
「アイア!!」
「カミラ! 久しぶり! 元気だった?」
手を取り合い再会を喜びながら、一言ごとに「きゃあ」が入ってしまう。
「変わらないわね、カミラ。って言うか綺麗になったんじゃない?」
「なに言ってるの、アイアこそ」
「うふふっ、いいもの使ってるから。カミラにあげようと思って持ってきた。髪がサラサラになって、すっごくいい匂いがするの」
「……それ、私が使って大丈夫なもの?」
特別な薔薇の香りがしたりしない? カミラが引き気味になるもの可笑しい。
スコットが口を挟めずに、さっきから唇を開いたり閉じたりしているのは、ふたりそろって無視。
コンコンと扉を叩く音がした。開いているのにノックするのはジャスパーの癖。
目を向けると、やはり立っていたのはジャスパーだった。
「廊下まで、あなた方の声が響いていましたよ」
教師のようなお小言を口にする。ここでようやくスコットに発言の機会が巡った。
「大丈夫、この時間は貸し切りで頼んである」
「変わらないね、君たちは」
明るい声と共にジャスパーの隣から顔を覗かせたのは、癖の強いダークブラウンの髪、日焼け色の肌をした青年。イグレシアス公子だった。




