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愛を伝える日の貴公子・1

 一年で一番花の売れる日。それが二月「愛を伝える日」だ。


 家令ロバートはエリックから受けたばかりの報告をエドモンドへと伝えた。

 息子曰く リリーが幾つもの花を貰っているようだと。


 大人の男性がリリーから花を買う。

そしてそれをそのまま「かわいいリリーに」とか「見るたびにキレイになるね」などと言いながら差し出す。


 リリーは感激した面持ちで「私に? ありがとうおじさま」と受け取り愛想をふりまく。


 そして男性が去ったところで花を籠に戻す。しばらくすると別の男性が――と。


「ぐるぐる同じ花が回っていて効率がいいんだ」

リリーは賢いよね。エリックは心から感心した様子を見せ、エドモンドの宮に花を届けると、母親に贈る花を片手に帰って行った。



 午後からこれといった用事のないエドモンドに、コーヒーと共に話題を提供するロバート。


「荒稼ぎしているか」


 特に感慨もなさそうに述べるエドモンドは、コーヒーカップに指を添えるだけで絵になる。相変わらずの貴公子ぶり。


「あまり目立たない方が良いのかもしれませんが」


 貴婦人同士でも見えぬところで足の引っ張り合いはある。

 まだ自身を売り物にしていないことで大目に見られているようだが、今後は妬まれないとも限らない。貴婦人と違い庶民では露骨なものだろう。


 だからといって「買ってやる」という客を断るはずもない。リリーの家は常に困窮しているのだ。



「たまには先に行くか」


 どこにと聞かなくとも、優秀な家令であるロバートには行き先が「隠れ家」だと分かる。


 今日来るという約束は無かったはずだと思うロバートに、エドモンドが言い放つ。


「アレが来なければあの家に行けないという決まりはなかろう。ロバート、十分やる花を持て」


 立ち上がる貴公子は上着と外套さえ羽織ればすぐに出られる服装だ。


 十分くれるとはお心の広い――などとは思わない。

端から出掛けるつもりでいたのだろう。


 ならば先にお申し付けくだされば花の準備など、エドモンド様が母君のご機嫌伺いでお留守の間に済ませましたのに。


 などと言うだけ無駄な言葉を長々と頭の内に繰り広げるロバートは「只今お持ちします」それだけを言って、速やかに退出した。







リリーは夕方いつもより早い時間に顔を見せた。


「おじ様と坊ちゃまのお帰りが早いなんて、初めてじゃない?」と嬉しそうな顔をする。


 リリーの仕事上がりが早いのは売り上げが良かったからかもしれない。


「今日はお忙しかったでしょう」と労おうとするロバートより先に、エドモンドがいつもの一人掛けソファーから命じる。


「さっさと湯に入れ」


素直にリリーが浴室へと向かう。


 若き主は水音に耳を傾けながら、近頃は発泡酒を嗜むのであるが、はたしてそれが良いご趣味なのかどうかを若干疑問に思うロバート。


これも口にすることは無い。



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