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番外編 ピンクのハートは誰のもの・4

「このまま帰宅します」


 分かっていないリリーにかわり、ロバートが馭者に指示する。


「その通りを行かれるならば、行き先は紳士倶楽部でしょう。そちらで軽食を摂られるかと」


 女性が入館できないのはリリーも知っている。ほうっと安堵のため息が漏れた。


「これで急がなくてもよくなった?」

「はい、倶楽部へ行かれますと二時間はお戻りになりませんので。奥様がゆっくりお湯をつかって、一日在宅していたように装うことも可能かと存じます」


くたりと座席に身を預けたリリーの目に光が宿る。


「おじ様、急いで帰るわ。明日もあるもの」


 なんと「明日も」でございますか。懲りない……口にはできないが奥様にぴったりな言葉はこれ。


 自分も疲れたがリリーも疲れたに違いない。エドモンド様のお帰りを待たずに寝せなければ。ロバートは素早く手順を立て始めた。







 翌日、なぜか引き出しに小箱は戻っており。石を目で見て手で触って確かめたリリーは、落ち着いて朝食のテーブルについた。


 客は公都にあるエドモンドの宮に来るので、荘園の別館を訪ねる者はない。

なので「暖炉の季節だものね」というリリーの言い訳は不要だ、とロバートには思われるのだが。


 言ってからいそいそとエドモンドの膝に乗るのはお約束。今も大好きな暖炉前だ。


「今日はお出掛けは、なし?」

「午後から出る」


 なんですって! リリーの耳が猫のように頭の上についていたなら、ピンと立ったに違いない。ロバートの背にも緊張が走った。


 エドモンドが淡々と告げたのは、リリーも家名だけは知っている伯爵家だ。 


「公都邸に異国風の庭園を造り、珍しい魚を泳がせているらしい。『本日の完成披露会にぜひとも』と言われていた。行かぬつもりだったが気が向いた。――どうかしたか」

「なんでもない」


 「坊ちゃまが可愛い石を持って行ったら、私も行く」とロバートに向けて表情だけで必死に主張していたリリーがエドモンドを振り返り浮かべたのは、露骨な愛想笑い。



 いえ、そのように密着していらしては、おふたりの場合お互いの考えが筒抜けなのではございませんか。


 と、言う代わりに、ロバートは主の目に入らない角度で「万事抜かりなく」と合図してリリーを安心させた。



 そして。背中を向けているリリーには見えないが、エドモンドの口の端が持ち上がったのを、優秀な家令は見逃さなかった。


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