表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

503/560

愛され聖女と実質グレイ侯・1

 今年の冬はきちんと聖女として働こうと思った。去年は王国から戻ったばかりで何もしなかったし、来年は聖女職を辞するかもしれない。




 既婚者となっても続けられないものか。先日、そう坊ちゃまに相談すると。


「物ごとに例外はつきものだが、長く続く組織には頭の固い者が多い。それが古い文化を守るのに適した思考でもあるから、一概に悪いとも言えないが――変革を穏便に進めようと思えば、年単位で考えるべきだ」


 このまま続けるのは難しいと説明してくれた。そして「聖女でいることに拘らなくともいいのではないか」と、リリーとは別の考えを示した。


「聖女であれば国教派に属し、活動に制限がある。が『元聖女』ならば名はそのままに自由度が増す。お前がしたいのは布教ではないのだろう?」


 なるほど、聖女リリアンではなく元聖女リリアン。リリーは大きく頷いた。

日々それなりに多忙で、先々のことを考える余裕はないけれど、もとより国教派の教えに心酔して聖女を志したわけではない。


 坊ちゃまのお言いつけと、みんなの協力とユーグ殿下のお力添えにより、夢にも思わなかった聖女になった。

 注目を集め尊敬されたいというような気持ちはない。社会の仕組みに関わるような事は坊ちゃまに任せて、せめて自分の食べる分くらいは稼ぎたい、という考えは甘いだろうか。




 などと考えつつ、年末の挨拶に支部を訪れる人々との面会を着々とこなしたリリーが一息ついているところに、「弟子の」エリックが、新たな客の訪れを告げた。


「ジャスパー・実質グレイ侯がお越しです」


 エリックの真顔に、つい吹き出した。義父であるグレイ侯は自領に居を移して半分隠居のようなものと聞く。そこから来た冗談だろう。


「お通しして」

 ほどなく、遠方から来たとは思えない整然とした装いで、ジャスパーが現れた。


 多忙に決まっているのにこんな片田舎まで来てもらって申し訳ない。型通りの挨拶をしそうなジャスパーに先んじて、不要だと断る。


「エリックしかこの部屋へは来ないから、いつも通りで大丈夫。お変わりない? ジャスパー」

椅子を勧める。


「ええ。あなたもお元気そうで何よりです」

言いながら、ジャスパーは包みを二つ並べた。

「こちらは当家から。そしてこちらはポロック家から預かりました」


 ポロックはスコットの家。この包みは献金だ。スコットが父に「リリアン聖女とリリー・アイアゲートは同一人物だ」と話したのだろう。

 支部の維持にもお金がかかるとエリックが時折こぼしている。頂けるのはありがたい。


「神は常にあなたの隣りにいらっしゃいます」


 それらしい言葉を澄まし顔で言えば、ジャスパーが可笑しそうにする。


「なあに?」

「いえ。聖女らしさも板についてきたと思いまして」


期間限定だけれどね。リリーは肩をきゅっと上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ