貴公子の砂の城は頑強です・3
「初めて温かいお魚料理を食べたのは、坊ちゃまが乗せてくれたボートだった」
リリーが懐かしむ顔をする。
「お留守番をしたご褒美に苺ソースをくれた時には、こんなにおいしいなら普通の苺よりこっちがいいと思った」
起きたら坊ちゃまがいて、びっくりした。その日を再現して目を丸くしてみせる。
「スコーンにジャムとクロテッドクリームをのせてもらった日は、こんなゼイタクをしていいのかと怖かった」
今したのは、半分に割ったスコーンにクリームを乗せる手つき。
「ボンボンは、今もお口に入れてくれる」
「おじ様のパンケーキは、いつだって最高」
「アップルパイはそれだけでも好きだけど、クリームがあると、よりいい」
食べ物の話が止まらないリリーに微笑を向けていたエドモンドが、ここでようやく口を挟む。
「食べているところで、別の食べ物の話ばかりするのは、どういう理由だ」
たしかに、目の前のテーブルには肉料理が済みチーズが並んでいる。塩気のものを食べながらの甘い話だ。問われて、リリーは口をつぐんだ。
「私が何か言おうとしていると察して警戒しているのだろうが――」
リリーの表情が微妙に変化するのは「図星」と言っているようなもの。
「まだパンプキンパイとカスタードプディングのお話はしてない」
渋々と口にするリリーに、エドモンドが「聞いているだけで、口の中が甘い」と顔をしかめる。
「お前が先延ばしにしようとしている話だが」
うっと小さくのけ反るリリーの前で、エドモンドが勿体をつけて発泡酒を飲み下す。
「先日、父に聞かれた。『お前はいつ結婚するのだ』と」
それはつまり。リリーがまばたきもせずにエドモンドを見つめ、ロバートに視線を移した。
話をすべて聞いていたロバートが、心得顔で頷いてみせる。
「おめでとうございます。陛下がお嬢さんを認められた、という事でございますよ」
まさかこんなに早く。リリーがそう考えていると、エドモンドにはもちろん、異能を持たないロバートにもわかるほど、顔に出ている。
「で、何時にする」
明日の朝食は何にすると聞くような気軽さで、エドモンドが問いかけた。




