表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

500/560

貴公子の砂の城は頑強です・2

「すごい! 見て、坊ちゃま。砂のお城がある」


 リリーが歓声を上げた。視線の先にあるのは、ロバートが探し出した名人の手による砂の城だ。

 砂の城と言えば、もろく壊れやすいものの代名詞だが、公国一の貴公子は簡単に崩れることなど許しはしない。


 しっかりと練った砂で作ったうえに、表面には接着力のあるものが塗られている。これは比類なく頑強な砂の城なのだった。



「キレイ。すごい。びっくり」と目を輝かせるリリーを、「お前の語彙力の無さはどうしようもない」などとつまらなそうに眺めているエドモンドが、実は上機嫌だと、ロバートにはわかる。


「少し小さいか。増築するか?」などと軽口を飛ばすことからも、それは推察できる。

「する」即座に返し、城の真横に膝をつこうとしたリリーを、エドモンドが急ぎ止める。

「またにしろ。これから食事なのに、手が汚れる」


「汚れたら洗えばいいわ。そこに水はいっぱいある」

作る気満々のリリーは、海水とはベタつくものだと知らないらしい。


 だから子供に冗談は通じないと何度もお伝えしておりますのに、エドモンド様も懲りない事で。以上を家令が言葉にすれば。


「お嬢さん、本日はあいにく道具がござせんので、増築工事は次の機会にお願いいたします。それまでに揃えておきますので」


 リリーは残念そうにしながらも「そうする」と引き下がった。





 日が傾き、海岸では初夏の風が心地よい。今いる別荘は借りたもので、まだ売買交渉中の物件だ。リリーが気に入った様子を見せれば、主は決めるだろうとロバートは考えている。


 砂は白くないので、テーブルセットの下には大きな白布を敷いた。今日は裸足ではなく、海岸といえどもディナーである以上、公国一の紳士エドモンドは上着を着用している。


 早めの食前酒から始めて、篝火が存在感を増す頃、ロバートは砂の城の窓ひとつひとつにキャンドルを置いた。予想通り美しく、ゆらめきは幻想的ですらある。


 砂の城にじっと見入るリリーの横顔を眺めながらグラスを傾けるエドモンド。邪魔にならない位置で待機するロバート。



「生がいいと信じてたの。余計なものがないって、直接的に粘膜に触れる気がするでしょう? もともと少しぬるっとしてるから。でも、タイアン殿下に新しい世界を教わったわ。トロトロのクリームがこぼれないように、下には厚めのクッキーを敷くの。そこに蜜が染みて、ぐじゅっとなってるのもまたいいの」


「まて」


 身振り手振りを交えて熱弁を振るうリリーを止めたのは、エドモンドだ。「なに?」と目で問うリリーに、確かめる。


「お前の言うのは『桃は生食が一番だと思っていたが、タイアンの雇う菓子職人の作るクリームの詰まった桃のデザートは、また新しい味覚の扉を開けた』で、合っているか」


せいかい。とリリーが頷く。エドモンドの端正な顔に呆れが浮かぶ。


「お前の語りを聞いていると別の話に思えてくる」

「最初から最後まで桃の話よ」

「――そうだろうな」


 エドモンドがすぐに譲ったのは、張り合うにはあまりにも内容がくだらないせいだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新を有難うございます!! ㊗500話!! 素晴らしいです♡ 「基本 毎日更新」で 体調不良の時もあるなか 素敵な物語を絶えず紡ぎ続けてくださり 感謝の気持ちでいっぱいです!! もうすぐ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ