貴公子の砂の城は頑強です・1
公都から近い海岸沿いに建つテラス付きの館。庭から砂浜に出ることができ、海岸は専有でなければならない。
欠かせないのは白砂。砂は波にさらわれてしまうので、おそらく補充は毎年となる。白砂の確保も重要だ。
要望を叶える物件の購入は、主エドモンドの決めた日までに間に合わなければ、条件の近い別荘を持ち主から借りるしかない。買い取りが成立しても全面的に改修する必要がある。
ロバートは頭を悩ませた。
海辺の別荘の所有になぜこれほど力を入れるかといえば、理由はひとつ。「王国で楽しかったのは、王子様と海岸ごっこをしたこと」と、リリーがよい笑顔でエドモンドに話したせいだ。
「『ごっこ』ではなく本物を見せる」と細かく指定した主に、「そのようなところでユーグ殿下に張り合わなくても、お嬢さんにとって、エドモンド様は絶対的な存在でございます」と言ったところで、別荘を探すのに消極的であると取られるだけだ。ロバートは口にする前に諦めた。
「アレが、初めての物を前にして驚く顔を、久しぶりに見たい」とエドモンドが漏らす。
素直に「『初めて見た!』と喜ぶ可愛らしい顔を間近で眺めたい」とおっしゃってはいかがですか。と思ってもそこは優秀な家令、おくびにもださない。
「畏まりました。早速」と返しながらロバートの頭に浮かぶのは、リリーの為にと街なかに探した「隠れ家」だった。
当時も物件探しは難航した。本人は知らないが、あの家の所有権は「聖人と認定された祝い」として、既にリリーに移されている。
「頭を使って生きていきたい」と言ったリリーは今、その言葉通りとなった。本人の努力は言うまでもないが、エドモンドの尽力によるところが小さくない。
貧困は当人の努力の欠如によるものと考える富裕層は多い。貧民街で女性の地位が低いのは向上する機会を与えないせいであると、エドモンドが気がついたのは、リリーと出会ったから。
そこでリリーだけを救うのではなく、法の改正に着手したのには、ロバートも驚いたものだ。
「能力の高さが認められると、逆に『平民女性は使いやすい』と便利に扱われ、不当な立場を押し付けられかねん。今後目を光らせるべきは、そこだろう」
問わず語りにエドモンドが語った相手はエリック。息子も思うところはあるらしく神妙な顔つきで聞いていた。
リリーと出会ったことで自身の見識が広まったとロバートは考えているが、成長したのは息子エリックもまた同じだった。




