表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

499/560

貴公子の砂の城は頑強です・1

 公都から近い海岸沿いに建つテラス付きの館。庭から砂浜に出ることができ、海岸は専有でなければならない。

欠かせないのは白砂。砂は波にさらわれてしまうので、おそらく補充は毎年となる。白砂の確保も重要だ。


 要望を叶える物件の購入は、主エドモンドの決めた日までに間に合わなければ、条件の近い別荘を持ち主から借りるしかない。買い取りが成立しても全面的に改修する必要がある。

ロバートは頭を悩ませた。



 海辺の別荘の所有になぜこれほど力を入れるかといえば、理由はひとつ。「王国で楽しかったのは、王子様と海岸ごっこをしたこと」と、リリーがよい笑顔でエドモンドに話したせいだ。


「『ごっこ』ではなく本物を見せる」と細かく指定した主に、「そのようなところでユーグ殿下に張り合わなくても、お嬢さんにとって、エドモンド様は絶対的な存在でございます」と言ったところで、別荘を探すのに消極的であると取られるだけだ。ロバートは口にする前に諦めた。



「アレが、初めての物を前にして驚く顔を、久しぶりに見たい」とエドモンドが漏らす。

 素直に「『初めて見た!』と喜ぶ可愛らしい顔を間近で眺めたい」とおっしゃってはいかがですか。と思ってもそこは優秀な家令、おくびにもださない。


「畏まりました。早速」と返しながらロバートの頭に浮かぶのは、リリーの為にと街なかに探した「隠れ家」だった。

当時も物件探しは難航した。本人は知らないが、あの家の所有権は「聖人と認定された祝い」として、既にリリーに移されている。



「頭を使って生きていきたい」と言ったリリーは今、その言葉通りとなった。本人の努力は言うまでもないが、エドモンドの尽力によるところが小さくない。


 貧困は当人の努力の欠如によるものと考える富裕層は多い。貧民街で女性の地位が低いのは向上する機会を与えないせいであると、エドモンドが気がついたのは、リリーと出会ったから。


 そこでリリーだけを救うのではなく、法の改正に着手したのには、ロバートも驚いたものだ。



「能力の高さが認められると、逆に『平民女性は使いやすい』と便利に扱われ、不当な立場を押し付けられかねん。今後目を光らせるべきは、そこだろう」


 問わず語りにエドモンドが語った相手はエリック。息子も思うところはあるらしく神妙な顔つきで聞いていた。


 リリーと出会ったことで自身の見識が広まったとロバートは考えているが、成長したのは息子エリックもまた同じだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ