セレスト家は美形揃い
昼食会のあとエドモンドの宮に立ち寄ったリリーは、久しぶりのエドモンドの私室を懐かしく見回した。
子供の頃、年の暮れに連れてきてもらって。「心配しなくても誰も入らない」と言われたのに、落ち着かなくて隠れた机もそのままだ。
何となく気になって眺めていると「下に潜ってみるか」と、坊ちゃまにからかわれた。
「もう大きくなったので、そんなことは致しません」と、丁重にお断りする。
「父とは何を話した」
長い脚を組み、優雅にくつろぐエドモンドの問いに、リリーは首を横に振った。
「私は直接お話ししてない」
エドモンドの片眉が上がる。「内々の昼食会」といっても、およそ八名ずつの五卓。そのうち大公と同じ卓に着いたのは、ユーグ殿下を含めて友好国の王族またはその代理の高位貴族のみ。
ユーグ殿下と背中合わせの位置を用意されたのは、身に余るほどの高待遇だったと思う。
「私への質問は、ユーグ殿下になさってた」
リリーは真面目な顔で伝え、黙した。
大公がどなたかとお話しになる時は、皆が傾聴する。決まった順に当たり障りのない会話が進み、肉料理のお皿が下げられる頃、会話の流れが変わった。変えたのは大公だった。
「次男が聖女を連れ帰ったのには、驚いた」
答えるのは当然ユーグ殿下。
「我が国の聖人制度及び国教派に深い関心をお示しくださいましたので、可能な限りお応えしました」
「聖女はなぜ、出会ったばかりの者について他国へゆく気になったのか」
これは難問だ。坊ちゃまは「広間で会った時にひと目で恋に落ちた」なんて恥ずかしい事を、ユーグ殿下に言ったと聞いた。ここで「両一目惚れ」と言われたらどうしよう……この言葉は私が今思いついたけれど。リリーは落ち着かない気持ちになった。
しばらく間をおいてユーグ殿下が口を開いた。
「エドモンド殿下のお顔が、リリアン聖女の好みなので」
澄んだ明るい声はよく通る。それが今はこの上なく恨めしい。
何てことを、それは言わない約束――は、していないけれど、それくらい分かりそうなものなのに。
天を仰ぎたい衝動を堪えたリリーが、動揺を隠してナプキンで口元を押さえつつ左右をそっと見れば、即座に視線がぶつかった。皆こちらに注目していて「顔……顔なの」と言っているような気がする。
恥ずかしさのあまり目が潤みそう。反応が怖くて大公の顔が見られない。お席が背を向ける位置で何よりだと思いながら、ユーグ殿下とはもう仲良くしないと心に決めた。
という話は思い出したくもないので、坊ちゃまには何も話さないことにする。ウソはついていないから、バレもしない。リリーは無言を貫いた。
「父の顔は見たか」
エドモンドが質問を変えた。
「最初、お部屋に入っていらした時に」
貴人のお顔をジロジロ見るのは不躾だ。もちろん目を合わせたりもしない。
「どう思った」
どう、とは。まさか。疑惑の眼差しを向けるリリーに、エドモンドが薄く笑む。
「父が言ったそうだな。『エドモンドの顔が好みなら、聖女は私の顔も好むだろう。何しろエドモンドは私に生き写しだから』と」
カチンと金属音をさせたのはおじ様ロバートだ。珍しく手元が狂ったらしい。カトラリーをぶつけたようで瞬時に「大変失礼致しました」と謝る。
「坊ちゃま、誰かから昼食会のお話をもう聞いたのなら、私に聞かなくてもいいんじゃ……」
「語り手によって、重きを置く箇所は変わってくる」
不満顔をするリリーにエドモンドは平然としたものだ。
大公は確かにそうおっしゃった。そしてユーグ殿下は「皆様たいへんな美形でいらっしゃいます」と、見事な受け答えをした。
リリーが思うに、大公と後嗣殿下が同じ系統のお顔立ち、坊ちゃまとタイアン殿下がお美しい大公妃殿下似で、公国一の貴公子は坊ちゃまだ。
大公の発言は本気なのか冗談なのか。誰も笑わなかったけれど、あれは笑うところだったのではないか。
後でこっそり聞いてみようと、リリーは横目におじ様を見た。




