佳き日のこと━━ユーグ殿下
式の始まるまでの間を利用して挨拶を済ませようとする方々で賑やかななか、ぽつりといたリリーを見つけるなり晴れやかな声を上げたのは、ユーグ殿下だ。
「リリアン、久しいな。変わらず何よりだ。こちらでは良い品がないと聞いたから、気に入りそうな物を王国より様々に持ってきたぞ。後で共に見ようではないか」
そんな響きの良い声で、公国を貶めるような発言をして。でも、王国の美的センスは公国よりも上と自負しているのが王国人。王族のユーグ殿下に眉をひそめる人など、いない。
いかにも貴い身分の方が、ずいぶん親しげに。相手は……誰?
そんな視線を跳ね返すのは坊ちゃまにもらったティアラだ。
あれほどのティアラをなさる令嬢、しかも王国よりお越しの王子と親しげならば王国貴族のご令嬢だと、リリーを知らない人々は推測していることと思う。
「そなたも今日の晩餐会には招かれたのであったな。では渡すのは明日にしよう。私は宮殿に滞在する、そなたならいつでも歓迎だ」
約束なしに来てよい、とおっしゃる。
本日の王子様は昼間の礼装をお召しで。いつもの派手な色もお似合いだけど、大聖堂の雰囲気には今のような落ち着いた装いがピッタリだ。
「馬車の飾りを持ってきたか」と尋ねられ、リリーは腰につけていた百合の飾りを外した。
髪飾りにしたり何かと重宝しているこれを持ってくるようにと指示されていた。
どうするのかと思えば、殿下のすぐ後ろに控えていた男性がどこからか赤いリボン飾りをだし、その中央に百合のブローチを留める。赤いリボンのついた百合のブローチの出来上がりだ。より立派に見える。
「これは?」
「胸章リボンだ」
胸につけるようリリーに勧める。
「服の色とは合わぬが、サッシュとはそういうものだ。私と揃いだとありがたく思うがよい」
言われてみれば、ユーグ殿下が肩から斜めがけにしている赤いリボンと同じ色だった。その簡易版ととればいいのだろうか。
「これで、そなたが王家の聖女であると他国人にもひと目でわかる」
いえ、王家の聖女ではなく国教派聖女です。と訂正はしづらい。
そして「人前で再会を喜べ」と言った坊ちゃまの狙いもここ。私が王国ベルナール家の後見を受けているように見せる事だ。
ユーグ殿下が知った上で協力して下さっているのか、単にお人がよいのか、「両国の仲は強固である」とこういったところからでも知らしめようとしているのか。
リリーの理解の及ぶところではないが、ご厚意はありがたく受け取る。
「ありがとうございます、王子様」
呼びかけは他に聞こえないように、そっとささやく。
「うむ」
王子様は満足そうにニコリとした。




