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聖女の笏 貴公子の杖・1

「おかえりなさいませ、お嬢さん」

「おじ様! 坊ちゃまのステッキって中が剣なの!」


 帰宅するなり目をキラキラさせてリリーが言うのは「仕込み杖」のこと。平和なこの時代、警護の者でもなければ帯剣しない。


 セレスト家が腰に剣を下げるのは、軍の正装をする時くらいのものだ。そのかわり、外出時に必ず持つステッキには、気休め程度の剣が仕込まれている。


「それにしても、なぜお嬢さんがそれをお知りに?」


 一番の疑問はそれ。どこからそんな話が出たのかとロバートが問えば、リリーは勢いよく語りだした。



 本日リリーとエドモンドは、国教派と協力関係にある英知の使徒派の幹部に会うために、とある街へ出掛けていた。

 約束した教会近辺では「エドモンド殿下と聖女が足をお運びになる」と数日前から噂がたち、街が浮ついた雰囲気になっていたらしい。


 そして、到着した時にはすでにかなり人が集まっていた。

馬車から下りたエドモンドは目をやることもなく進み、「軽く会釈のみしておけ」と指示されたリリーは、微笑つきで任務を遂行した。


「素敵! 素敵、素敵!!」

「殿下――」


 若い娘らしい高い声が方方から響く。男女比は半々に見えるが、声は女性ばかりだ。


「坊ちゃまも、ちらっとくらいご挨拶しないの?」

 聞いたリリーに、案内する関係者の背中を見据えたままでエドモンドが「しない」と返す。


「ここで少しでも目をやれば、流し目がどうのと騒ぎだし、時はによっては失神者が出る。見慣れない動物を目にして喜び興奮するところは、お前とそっくりだ」


 まあ! なんてことを。リリーの口が菱形になることなど、エドモンドは少しも頓着しない。

 坊ちゃまのお顔はキレイだし、機会があれば噂の公国一の貴公子を拝みたいと思う女の子の気持ちは、リリーにはよくわかる。


「さて、帰りはどうか」

その時、エドモンドの言葉を気に留める者はなかった。




 いつくかの案件で折り合いがつき、細部は実際におこなう者が詰めたほうが良いとなり、二時間に及ぶ会合が終わった。


「外が賑やかなようだが」

エドモンドの言うとおり、室内にいても騒然とした気配は伝わってくる。


 警護員がひとり、状況を伝えに来た。人が人を呼び教会周りは先程より更に人が増え、もはや群衆と呼ぶレベルになっていると言う。


 詳細を問うエドモンドに、平身低頭して説明する。

「ひどく興奮している者もおり、このまま出ても馬車が囲まれます。御身の安全をお守りするには警護員が不足しております」



 坊ちゃまエドモンドが「警備は万全にと言ったのに、これか」と思っているのが、リリーにはわかる。けれど予想外の事はいつだっておこるものだ。


「建物の中まで押し入る可能性は」

「ないとは言い切れません」


 険しくなるエドモンドの顔を横目に見ながら、リリーはコクリと喉を鳴らした。


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