赤の聖女と黒の王子・4
そう言えば、ジャスパーは卒業したらジャカランス様と結婚する、と聞いていた。まだ「おめでとう」も言っていないことにリリーは気がついた。
それより。聞かれたのは、坊ちゃまと結婚するかどうかだ。
「殿下の気が変わらなければ。でも、たぶんする」
協議の場で、ユーグ殿下に問われて坊ちゃまが語った言葉に偽りはないという確信がある。坊ちゃまの気は変わらない、ずっと。
黙したジャスパーは、私にはその地位は無理だと心配してくれているのか。目もとに差した憂いを取り除きたくて、リリーは努めて明るい声を出した。
「以前のままの私だったら、こんな夜会には出られない。今のようにジャスパーと約束なしに会えたりしないわ。でも殿下と結婚したらジャスパーと同じ階級よ。いつでも会えるわ」
「同じ」
ジャスパーが復唱する。
否定的な響きからして「公妃」と「侯爵」は同じ階級ではないらしい。まとめて上流階級だと思ったのに。きまりの悪さを誤魔化すためにコホンと空咳などして、提案する。
「ね、ジャスパーのところでお茶かお食事に私を呼んで。カミラとスコットも一緒に」
言ってから、思いつく。
「でも、他に知れたら『グレイ家はエドモンド殿下寄り』と思われて、支障が出る?」
「あなたから、そんな話を聞くとは」
言われてリリーは胸を張った。
「社交もやらせてみたら、案外うまいんじゃないかと思うの。慣れは必要だろうけど、殿下とジャスパーがいたらどこでも怖いものなしでしょう」
ジャスパーの唇に微かな笑みが浮かぶ。
「聞いているのですか」
「なにを?」
「グレイの父がエドモンド殿下を支持していると」
リリーは目をぱちくりとさせた。
「初めて知ったわ」
お酒のお代わりが欲しいとねだると、ジャスパーが貰ってくれる。
グレイ侯が坊ちゃまを支持しているとしても。
「ジャスパーは、殿下じゃなくて私のお友達でしょう?」
ここは念を押しておかなくてはと思うリリーに、ジャスパーは頷いた。
「ええ。変わらぬ友情を捧げます――アイア」
目顔でグラスを軽く捧げる。
「私も。知ってた? ジャスパー。最後に残るのは友情なんですって」
「どこで聞いたのですか」
「覚えてない」
しれっと答える。ジャスパーが顔をしかめても、そんなの全然平気。リリーは聖女らしからぬ振る舞いとは承知で、グラスを気持ちよく空けた。




