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赤の聖女と黒の王子・1

「エドモンド殿下が見初めた聖女を連れて王国から戻った」という噂は野火のように広まった。帰る前から、すでに話題になっていたらしい。


 その女性はレアード領に設けられた国教派の支部に住み、布教と王国公国二国間の友好を深める役割を担うと、まことしやかに、しかも具体的に囁かれた。


 平民出身ながら王家の信頼も篤く男爵位まで賜った、というまだ若い聖女の立身出世の物語は、すでに庶民の間でも知られ始めた。



 荘園の館には年の暮れに戻ったが、正式には年が明けてすぐ帰国したことになったので、自国においてのエドモンドの久しぶりの公務は、新年を祝ぐ大公家主催の夜会だった。


 それには聖女リリアンも招かれた。パートナー必須の夜会だけれど、エドモンドは迎える側でありエスコートができない。エリックと参加することになった。

 エリックは時々で聖女の弟子であったり、家令見習いだったりと立場を変えている。それほど細かく見る人もないだろうと、そのあたりは適当だ。



 王国ではくすませていたリリーの赤毛も、坊ちゃまエドモンドは「もうそのままでいい」と言う。「水が違えば色は変わるものだ」などとあり得ない理由を捏造する。


 仮に赤毛の行儀見習いと重ねて見る人がいたとしても、かまわないと言う。

「タイアンが黒髪好きで通っているから、私が『赤毛好き』でいいのではないか」

――タイアン殿下は黒髪好きで知られているらしい。



「笏も持って行く?」

「今夜は置いていけ」


 笏は誰もが持てるものではない。聖女には「聖女の笏」があり、儀式の時には必ず持つ。大公家主催の夜会ならば最高に格が高いので、笏の登場かと思えば違ったらしい。


 護身にもちょうどいい硬さと長さなのに、とリリーは残念に思った。王子様ユーグ殿下から「これを私だと思い、肌身離さず持っていてくれ」と、餞別にもらったお品だ。


 ユーグ殿下の言葉を伝えたら、笏はすぐにオーツ先生に調査に出された。

「おかしな仕掛けがあるかもしれない」と疑いをかけられたけれど、そんな事実はなく、ただ美しく手のこんだ細工の笏だった。疑われた王子様がお気の毒だ。



 






 今夜のドレスはユーグ殿下にいただいた聖女感溢れる一式。聖女を見たことのない人でも、いかにも聖女だと納得するような仕上がりだ。本物以上本物。

「なんて、私は正真正銘の聖女なのですが」との気持ちをこめて、不躾な視線におっとりとした微笑を返す。

広間についてからこればかりしていて、少し飽きてきたとリリーが考えた時。


「リリー」

エリックが耳元に口を寄せてささやいた。


「わかってる」

微笑を張り付けたまま返す。先ほど強い視線を感じた相手は確認済みだ。


 四方八方から見られて、背中まで緊張させていたから、気がつかないはずがなかった。


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