表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

471/560

坊ちゃまと帰る家・2

「今夜はお前も早く休め」と言われたロバートは、寝る前に一度、暖炉の火だけ確かめておこうと、エドモンドの部屋へ入った。


 暖かな夜具を使っているので、小さな火が朝まで消えなければそれでいい。


 常夜灯としての蝋燭がひとつともる中、何気なく寝台に目を向けたロバートは、驚きのあまり半歩後退った。



 主エドモンドの寝姿を覗き込んでいる人影。

曲者!? どこから。それより何より、至近距離で主が気が付かないことなど有るのか。


 よくよく見れば、その人影は乱れ髪が頬にかかったリリーだった。

 寝台に膝を折って座り、じっとエドモンドの寝顔を見つめているが、心ここにあらずというか、表情がまるで無い。

 リリーによく似せて作った人形と言われたら信じてしまいそうだ。


 いつからそうしているのか。静かに寝入るエドモンドを不思議に思いつつ、眠りを妨げないよう注意を払いながらリリーに呼びかける。


「お嬢さん、お嬢さん」


 ぴくりとも反応しない。本当に人形のよう。ロバートが肩に手を触れると、すでに身体は冷えていた。


「お風邪を召します。エドモンド様の隣りにお入りなさい」


 薄い夜着ひとつでは冷え切ってしまう。耳に届かない様子のリリーに、せめて何か着せようかとロバートが辺りを見回すと。


「ロバート、もういい」


 薄暗がりのなかこちらを見るエドモンドと目が合った。


やはり。

「お目覚めでしたか」

「コレがこうして座っている時は、油断できない。いきなり前に倒れて顔を潰された事がある」


 公国一とうたわれる端正なお顔に、何ということを。さぞかし驚いたのだろう。主はどこまでも真顔で言う。


「お前が見るのは初めてか。昔から時折あることだ。夜中にむくりと起き出して、じっとこちらの様子を窺う」


 微動だにしないリリーだが、エドモンドは声をひそめる。


「夜中に目を開けた瞬間、無表情のコレと視線が合うのは、私でもゾクリとする」


 ロバートにもそれは分かった。恐怖ではなく別の何かだ。


「魂が抜けて(むくろ)のようだと思った夜もあれば、コレが私を見定めていると感じた事もある。コレはただ寝ぼけているだけなのだろうから、私の気持ちが投影されていると考えるべきだ」



 不意にリリーの体が揺れて、ロバートは咄嗟に肩を掴んだ。エドモンドも手を伸ばしかけている。


「坊ちゃま……」

人形が細い声をあげた。


「なんだ」

低く穏やかにエドモンドが問う。


「だいじょうぶ?」

 何がどうと言わないのは、やはり寝ぼけているのだろう。ロバートは肩を両手のひらで包む形に変えた。これしきのことで温まるとも思えないが、せめても。


「何の心配もない」

端的にエドモンドが応じる。

「おじ様は」


 返しても良いものかどうか。寝言に返事はしてはならない、と言われもする。ロバートの代わりにエドモンドが教えた。


「もう寝ている。だからお前も休め」


リリーがほっと息を吐く。

「寝ても死なない?」

小さな声だ。


「朝になったら目覚める。覚めなければ起こしてやる」

「ぜったい?」

「必ずだ」


 さあ気が済んだなら入れ。と、エドモンドが膝に乗る細い手を引く。もぞもぞと潜り込みながら「そこ違う。手はこっち」と細かな位置にこだわるのが、ロバートには妙におかしく感じられて、どこかほっとする。


 すぐに寝息が立った。本当に寝ぼけていたらしい。

黙って退出すればいいと知りながら、肩周りの上掛けを整えて隙間を塞ぎなどしてみる。


「幸せな眠りが訪れますように」と口中でつぶやいて、寝台を離れ際「それは私とお前次第だ」と聞こえたように感じたのは、気のせいだろう。


ロバートは一礼して扉を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新をありがとうございます♡ ㊗帰国! なるほど タイアン殿下の結婚式に王国の聖女として出席 しかも王国の王子様のお気に入りで エドモンド殿下の恋人らしく 何故か次期グレイ侯爵のジャスパー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ