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坊ちゃまと帰る家・1

「さすがにこれ以上はいられない。叱られる前に帰るよ」と、タイアン殿下は先に帰って行った。


 買い物を存分にし、いくつもいくつも舞踏会に出て、ご令嬢をキャーキャー言わせ、貴婦人方にもてはやされたそうだから、遊び尽くして満足したのだろう。と、リリーは思っている。


「坊ちゃまも、一度帰る?」

おじ様にはいて欲しいけれど、駄目ならエリックでもいい。


「いや」

エドモンドは即応した。

「お前を連れて帰る」


 キノコによる物忘れ――忘れたのはエリックだけど――とか、誘拐騒ぎ――本当は狙われたのはリュイソー聖女――があったせいで、王国と自分に対する信頼が地に落ちたようだ。

坊ちゃまは「目を離すとより面倒な事になる」とでも思っているらしい。そこはリリーの不徳の致すところ。


 それでも公国へ帰るのは、春を過ぎて夏くらいかしら。リリーはそう漠然と考えていた。






――のに。年末には、エドモンドの所有する荘園の館に揃って戻って来た。


 すぐに聖女を他国での布教活動につかせることはできない。よって「一時的な視察」を繰り返して、長期の出張という形を取るらしい。

 説明をどう聞いても「公国にずっと住む」と思えるのに、上の考えることはよく分からない。


 坊ちゃまがそれでいいなら、私が言うことはない。リリーは謹んでお役目を受けた。



 王国を出る日、王子様ユーグは子犬をつれて見送りに来てくれた。きらびやかな服装もこれで見納めかと思うと、何やら寂しく感じるリリーに、得意そうに告げる。


「タイアン殿下の結婚式と披露宴には、父の名代で私が出席するつもりだ。そなたも出席できるよう、はからってやろう」


「来なくていい」と言いたげな気配が、隣りに立つ坊ちゃまエドモンドから立ち昇る。何か言い出す前に「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」と、リリーはハキハキと答えた。


 本当は仲良しなのに意地悪をしたがるのは、坊ちゃまの悪い癖だと思う。




 

 一足先に帰国、ではなく「赴任」したエリックが万事整えてくれたおかげで、荘園にある館はまるで昨日もここで暮らしていたかのような快適さだ。


 暖炉の火は赤々と燃え、リリーの作った白い羊ラックは枕の上にちょこんと乗っている。何もかもが元のままだ。ほかの羊も並べて遊ぼうとするリリーを、エドモンドが止める。


「先に湯を使え。出てきたら髪を乾かしてやる。人形遊びはその後だ」


 先にしたいのに。でも「したいことは、しなくてはいけない事を全部済ませてから」だ。まさか、こんなに大きくなってまで言われようとは、はなはだ遺憾である……とは口にせず、「はぁい」とリリーはおとなしく浴室へと向かった。


 背後で「ワインなど召し上がりますか」とおじ様ロバートが尋ねている。

「そうしよう」と返す坊ちゃまの声。


帰って来たのだとリリーは実感した。


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