名乗り出た父・3
赤毛の軍人の逃亡生活は、賭け事と酒に溺れるお定まりのものだった。ロバートの手の者が探し当てた時には、法律で禁じられた真剣を使っての賭け試合で、命を落とした後だった。
当時、報告書に目を通したエドモンドは、しばらく瞑目していた。
「アレには両親の話はしない。今『お前の母と呼ぶ女は、母ではなく叔母だ』と聞かされても、混乱させるだけだ」
ロバートも無言のうちに同意した。親だと思うからこそ辛くあたられても、慕っている。知って今までのように接することができなくなっても、他に保護者があるわけでもない。関係が難しくなるだけだ。
「父親のことも、だ」
赤毛の軍人がリリーの父だと断定できたのは、かつての同僚アイアゲート氏にリリーの似顔絵を見せて「よく似ている」と証言したこと。
そして聞き取りを重ねるうちに、「針子をしているという恋人とその妹と会って飲んだことがあった」と思い出したことからだ。
「問題も様々あり騒ぎも起こしましたが、気の好い男でした。不思議と憎めないところがあって」
アイアゲート氏は懐かしみ、その死を悼んでいた。そして「もしも、その遺児に身寄りがなくなったら、養子にしてくれないか」というロバートの頼みを、迷うことなく引き受けた。
「かかる費用はこちらで持つ」とまで約束する貴族の頼みを無下にはできないのが理由ではあろうが、旧友の忘れ形見の力になりたいという気持も大きかったように思う。
その後、ロバートが異国の地で受け取ったアイアゲート氏からの手紙には、「リリーに父親のことを匂わせたが、聞きたくない様子だった」と書かれていた。
知るのが怖いか、最初からいなかったものは気にもならないか。
「母親がろくでもなかったから、父親もそれに見合う男だと考えているのだろう。アレは賢い。下手に親子の名乗りを上げては、また喰い物にされかねないと察している」
ロバートの考えを読んだように、エドモンドが口にした答えが正解であるかどうか、わかる日は来ない。
リリーに尋ねる気が、ロバートに無いからだ。
思い出すロバートと同じく、主エドモンドもまた思いを巡らせていたのだろう。伏せていた目蓋を上げた。
「早急にこの国を出る。次から次へと父親が出てきては面倒だ」
「面倒だ」は「アレが嫌な思いをする」と、ロバートには聞こえる。
エリックから聞く限り、リリーは気に留めていないようではあったが。秀でた精神系の異能持ちであるリリーが、笑顔の下に本心を隠すことはたやすい。
早急にと主が言うなら、ここからは早い。ロバートは気を引き締めた。




