聖女の今後は貴公子次第・7
この状況では。「お友達の仲間にいれる」とは言えない。他のお友達――坊ちゃま――が「いいよ」をしてくれなくては、リリーの勝手に「いれて・いいよ」はできない。そして、またお断りもしにくい。
「タイアン殿下も一緒に遊ぼう」
これが精一杯だ。お友達に入れるかどうかは、後で坊ちゃまの意見を聞いてからでないと。
今度はユーグが順繰りに顔を見る。
「私も入れてくれ」
――言い出すんじゃないかと思っていた。「ではユーグ殿下も一緒に」とリリーが言う前に。
「断る」
きっぱりとした一声は、エドモンド。
「は?」
ユーグが王子様に似つかわしくない間の抜けた声を出す。
「大人のようにみせて、エドモンドは存外心が狭いんだよ、ユーグ」
知らなかっただろう? 私は知っていた。などと、タイアンは自分の方がエドモンドに詳しいのだと、自慢げな態度を取るから、ユーグの目が三角になる。
「気安く名を呼ばないでいただきたい」
「いいだろう、非公式なんだから。先からエドモンドが呼んでいるのには、何も言わなかったのだし」
譲る気のない大人の仲裁に入るのはリリー。
「仲良くしないと一緒には遊べないのよ。ユーグ殿下ももちろん一緒に遊べばいいわ」
意地悪はよくないし、年下の子をからかったりするのもダメ。と、ルールを知らないタイアン殿下を、目で軽くたしなめる。
「これはこれは。今後リリアン聖女が両国の架け橋になると、はからずも示した形となりましたね」
ウーズナムが隣席の聖女派の紳士へと語りかけると「ええ、喜ばしい限りです」と如才なく返る。
流れもそのままに進行役が提案した。
「協議は今後も続けると承知しておりますが、ユーグ殿下と国教派代表者様にご異存がなければ、大筋は本日採択しても宜しいかと考えます。いかがでございましょうか」
リリーが察するに、今日の話し合いで本題から外れてばかりなのが嫌になったのだ。何度もこんなやり取りを聞かされるのは、耐えがたいに違いない。
「その前に」
ユーグがリリーに視線を据える。
「そもそも、リリアンは友達と何をして遊ぶ?」
思ってもみない質問に、思わず浮かせた腰を再びおろして、リリーは目をきょろっとさせた。
お友達と? 釘を投げたり、リース作りとか。暖炉の前でおしゃべりとか。
考えるすきに、タイアン殿下が入り込んだ。
「占い」
リリーが「あっ」と思う間に。
「迷路」
余計なことを言い出す。
「迷路?」
エドモンドが訝しげに聞き返す。
「お泊り会! お泊り会が楽しい!」
打ち消そうと大きな声で告げる。
「みんなに泊りに来てもらって、夜ふかしして噂話とか好きな子の話とかするの」
そんなの大人は普段からしているのかもしれないと、ちらっと頭をよぎったけれど、迷路よりはマシだとお泊り会を推す。
「私も行ってよいか」
ユーグが尋ねる。
もちろんだとリリーは何度も頭を縦にふった。「どうぞ」と言わないことで採択ができなくて、気ばかり遣う集まりが何度もあってはかなわない。
「待て、安請け合いするな。本当に来る」
エドモンドが、心から迷惑そうに止める。
「大丈夫、安心して。僕を呼んでくれれば、ファーガソンを連れて行くから」
人手は足りる、とタイアンが口出しすると、エドモンドの指がコツッと机を叩いた。
「先のお約束もまとまったことですし、記録係を戻しましょう」
ざわつく雰囲気をものともせず、進行役がまとめに入る。
今のうちに。リリーは気持ちを込めて坊ちゃまエドモンドに強い視線を送った。
ユーグ殿下が「好きなのは顔」と言ってしまったけれど、それは本意じゃない。早いうちに訂正しておかないと。
本当は「坊ちゃまは優しいから好き」だ。
当然のように受け止めたエドモンドから「知っている」と無言で返る。
なんだか、他所から。気がつくとタイアンが「僕も女の子には優しいよ。知ってる?」とニヤリとして告げる。もちろんこれも無言。
それも伝わっているはずの兄殿下は、弟殿下をもはやいないものとして扱っているけれど、私はそうもいかない。でもこれ以上の面倒事はご免です。リリーは慌てて目をそらした。




